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6-18 レインボーな享楽

『で、そいつをどうしようというんだ』

 彼女は、少し険のある表情で俺に向かっていった。可愛い女が、こういう顔をすると、妙に魅力あるよなと思いつつ、リクエストには答えてやった。


「いや、別にどうもせんけど。ところで、こいつって何?」

 俺はまるで、どこかの動物の楽園の主のように、【ラオ】を「もっしゃもっしゃ」しながら訊いてみた。うーん、やっぱり、「ぬこ」はいいな。


 そんな様子に呆れながら、その女は抜かした。

『そんな事も知らずに乗り回していたのか! そいつは凶暴なので有名な魔物だ。だが、そういうモノを飼い慣らしたいとか、そういう考えを持つ愚か者もいるのだ。探索者により眠らされ、持ち込まれたものだ。どうせ、王都の退屈している馬鹿貴族の依頼だろう。そして、王都でこういう馬鹿騒ぎをやらかすのだ。持ち込まれた事について密告があった』


 ふうーん、なんかこの猫、大人しい感じなんだけどな。密告で動くって事は、この女も治安機関の人間か。しかし、王都が隣だしギルドのサブマスって雰囲気でもないが。


「で、お前はなんなのさ」

『私は、バネッサ。そいつの捕獲の依頼を受けたのだ。このパイラオンは、そこの倉庫で眠らされていたのだが、馬鹿共の抵抗が激しくてな。もたついている間に、そいつが起きてしまったのだ』


 ようするに、1人で大立ち回りをやって、へたを打ったわけだな。こいつからも、残念臭がプンプンするぜ。生憎と残念美人にはゲップが出るんだが。それに比べて、このぬこの可愛さよ。ほれほれ、もしゃもしゃ。


「殺すのか?」

 俺は、ちょっとバネッサを睨みながら言った。


『魔物だから、本来ならそうせねばならんのだが。そいつが悪いわけでもないからな。迷宮へ戻してやろうと思っている』


 そいつはまた、お優しいこって。

「良かったな、お前。迷宮へ帰れるってさ」


 だが、そいつはデロンっとひっくり返ってしまって、何か御愛敬を振り撒いているかの如くだ。おいおい、うちで猫は飼えないぜ。ちょっとサイズも大きいしさ。


『おい、そいつを殺したくなかったら、言うことを聞かせろ。さもないと騎士団の連中が出張ってくるぞ』

 そんな事言われてもな。眉を顰めて皺を寄せる俺の手をパイラオンの奴が舐める。


「ラオ」

「グルウ」


『もう名前まで付けたのか』

 呆れたように、腕組みしたバネッサが評する。


「いや、ちょっと言ってみただけなんだけど」

 俺は寝転がって、喉をごろごろ言わせているラオの腹に跨って、もふりながら訊いてみる。


「どうすんの、これ」

 彼女は、そのピンクの透けるような美しい瞳を困惑と共にギュっと下めに寄せて、唸るようにこう言った。


『とりあえず、そいつを連れて来い』

 ああ、狩りに行く予定が~。まあいいかあ。


 俺は、立たせたラオに跨るとのんびり付いていった。何故か、こいつはご機嫌そうに鼻をふんふんさせながら、彼女の後をついていく。


 猫かあ。昔、妹や弟がよく拾ってきたっけなあ。親が猫アレルギーだったんで駄目だったが。俺はアレルギー、大丈夫っぽいな。まあ、これは猫じゃないけどさ。乗り回す用の猫というのも如何なものか。


 そして、俺達はギルドへと着いた。なんだ、結局ここに来るのか。人間用の入り口を、体をすぼめながら、俺が頭をぶつけないように気を使ってラオはギルド内に入り込んだ。


『バネッサ! おい! 何だ、そいつは』

『これが件のパイラオンよ』


『そ、それはわかるが』

 間抜けそうにラオに跨った俺が、何か問題になっているのか?


『い、いや、しかし。何故そいつはパイラオンに跨っているんだ? 大人しく人のいう事を聞くような魔物じゃないんだぞ』


「そんな事言われてもなあ。お前も何とか言えよ、ラオ」

「ゴロゴロゴロ」

 えーっ。


「それで、こいつの事は、このギルドで預かってくれるわけかい?」

『いや、預かるって、お前』

 じゃあ、何か? 俺にこいつを持って帰れと?


 淳や亜理紗が喜ぶかなあ。ちょっと微妙だな。あれだ、今野球用に貸し出している、あの土地で飼うしかないか? あってよかった治外法権。とりあえず猫からは降りておいた。


『お前、名前は』

「ハジメ。ハジメ・スズキだ」


 ふうっと、バネッサとかいう女は溜め息をついてから言葉を続けた。

『では、ハジメ。色々調整がつくまで、そいつの面倒はお前が見ろ。そうしないと、そいつは殺されてしまうぞ』


 そう言いながら、輝くイエローの髪を振りかざし、光を振り撒きながら大気に靡かせて、なんか偉そうな強面女は腕組みして立っている。この女、何故魔物の命をそう気にかける。


 うーん。どうしたもんだ? 肝心の猫は、なんかさっきから、えらい事すりすりしてきているし。

「ま、いいけどさ」


『そういう事だ、パイロン。私は父にお伺いを立ててこよう』

「わかりました」


 ギルドの偉い人らしき方が、この女には丁寧な口を利いている。その去っていく後姿を見送りながら、しばし思索に耽る。


 うーん、あの女は立場が上の人間か? よくわからないな。まあいい、じゃちょっと猫と遊ぶか。どの道、すぐ迷宮には行けそうにない。もしかして俺からは、あの特別な迷宮魔物マダラやグーパー、その他の匂いがするのかな?


「もっふもふう~」

 語尾に音符マークがつきそうなほど、ご機嫌で俺はラオをもふっていた。


 何故か持っている猫じゃらしなんかで遊びながら、色々考えていた。こいつを連れ歩くのなら、コースターの貨物車版、ビッグバンあたりに乗せてかなあ。


 日本に連れていったら、全身川島の餌食になりそうだ。尻尾もなんか凄くてさ。滅茶苦茶に綺麗で格好いいんだ。地球のあらゆる猫科にもいない、レインボー尻尾だぜ。


 まあその前に、「オネエ大佐」に躾けられちまいそうだけどな。

 飼うんなら自衛隊駐屯地も悪くない。ああ! 守山駐屯地じゃ、ちょっと狭いかな。


 新作です。

https://book1.adouzi.eu.org/n9336el/

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