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6-15 新しい街へ

 俺は第15ダンジョン米軍地上駐屯地バフォメットを辞して、大佐の衝撃を残しつつも、探索者スタイルで第15ダンジョンへと向かった。


 ここにも203ミリ自走砲達が鎮座ましている。こいつらもドルクットみたいな奴が出てきたら、無事には済まされないだろう。


 ファストをかけて、軽く駆け足で走ってゆく。入り口の警備をしている自衛官達は、布の服に皮の防具と西洋剣を身に付けた俺を華麗にスルーして、挙手で見送ってくれた。街中だったら、不審者として職務質問されるだろう。


 中へ入ると、この前の轍を踏まぬように、でかい奴グーパーを呼んだ。いざという時に、すっとこいつを呼べると安心感が違う。こいつらは、ただの魔物ではない。ダンジョンを神の1柱に例えるならば、こいつらは神使のようなものだ。多分、凄い力を持っているのだろう。


 今日は歌舞伎っぽく、1本足でちょんちょんと跳ねてくれた。天井低いんだから無理するなよ、と思いつつ頭を撫でてやった。


「さあ、グーパー。今日は初めて行くダンジョンだ。場合によっては、この前みたいにすぐ逃げ出すから、そのつもりでいてな」

「グー」


 よしよし、可愛いな。その直後に、俺はやや黒っぽい空間に立ち尽くしていた。おお、ここが第15ダンジョンの向こう側か。大広間は差し渡し200m弱ってところかな。


 何か黒っぽい感じの石で大広間が加工されている。おかげで高さの感覚が掴みにくい。アレイラよりは天井も低そうだ。縮尺的に見て、形そのものはアレイラとそう変わらないように見える。


 通路を見ると、やはり第15ダンジョンと同じで15本ある。そのへんは他のダンジョンと変わらないな。


 他の探索者達も歩いている。この前のような事はないだろう。

(グーパー、ありがとう。すぐに帰る事にはならないようだ)


 俺は奴に念話を送っておいた。あいつら、普段は何をしているんだろうな。俺は他の探索者に紛れて、大広間から出てみた。中が少し暗い感じだったので、外の陽光が強烈に感じる。


 ここは、3つの大陸のうちのどこだろう。いや、それ以外の島っぽい場所もあるとか言っていたような。アレイラみたいに地図があるといいんだが。


 外はやはり塀で囲まれていた。どこも同じようなものだが、これがダンジョン封鎖には効果が高いのだろう。空を飛ぶ奴は始末に負えないが、そもそもダンジョンの中で空を飛ぶ奴なんているのか?


 外にいる飛行魔物なんかは、どこから沸いてくるんだろうな。普通に卵から生まれるとかだろうか。


 広場の具合も、他の場所とは趣が違った。ここは、畳1枚くらいのスペースに簡単な小屋のような物を建てて、店を開いているところが多い。へー、面白いな。食い物屋みたいな物でなくて、色々店が出ているんだな。何々?


「迷宮での貴方の武運を祈らせてください。フォルニック大神殿」

 うわー。


「今週の貴女の運勢は。素敵な殿方との出会いが見つかるかも」

 何か、詐欺かなんかじゃね?


「人気のあの方の絵姿を」

 まあ、これは割とまともな方かな。段々ダンジョンと関係が無くなっている気がする。 


 色んな物があるなあ。あれで、結構商売になってるっぽい。まあ、客が喜んでいるんならいいか。ほどなく、探索者ギルドの旗を見つけて、そちらへ足を伸ばした。


 ここは、少しエキゾチックな感じの建物だな。この世界で今まで見てきたのは、割と落ち着いたというかモダンな感じなんだが、ここは少し趣が異なるようだ。俺は入り口付近で少し立ち止まってみていた。まあ、中はそう変わらないだろう。


 そう思った瞬間、俺は飛びのいた。何かがファクラの力に反応した気がして。今まで俺が立っていた空間を、西部劇に出てくるタンブルウィードの草の固まりの如く、見事に男が転がっていった。


 探索者のようだった。俺は顔を顰めると、近付かないようにして、中の様子を伺った。

『馬鹿野郎、一昨日来やがれ』


 この世界にも、そんな言葉があるんだなと思いつつ、表に姿を現した声の主を検分した。理由は言わずもがな。その声の主がすげえ美人だったからだ。スタイルもバッチリのようだ。


 彼女は周りにジロジロっと目線をくれるや、中へ戻っていった。

「やれやれ。静かな異世界ってのは、どこかに無いもんかねえ」


 独り言で文句を言いつつ、まあ入らない訳にもいかないので中へ入る事にするが、一応イージスは張っておくことにした。幸い何も無いようだ。少し見回すと見た事あるような物が目に入った。


「お、世界地図発見」

 俺はいそいそと地図の前により、早速記録に収めた。写真に取り、動画を取り、データが消えぬようにSDカードをケースに入れてポケットに収める。これで最低限の情報は手に入れた。


 んー、ここは左端の大陸であるエルンスト大陸の右側の端か。左端にある第9ダンジョンとは大陸の反対側にあるな。緯度的に見ても過ごしやすい位置にある。3大ダンジョンが、文明というか先進国が発生しやすい緯度に位置しているのは興味深い。


 俺は視線を感じて、クルっと振り向いたら、なんとさっきの剣呑な美女がいた。美しい金髪というよりは、黄色の髪。なんていうか、ラーニャのピンク髪のイエローバージョンか。それとピンクの瞳。また色彩豊かだな。


 肌の色は真っ白でキメ細やかで、その他の色彩が余計に映える。鼻筋は通っていて、瞳の美しさと唇の形の良さ、そして柔らかさが伝わってくるようだ。俺は思わずボーっとしてしまったが、その唇から漏れ出たのは残念ながら、俺への愛の言葉ではなかった。


『おい、お前。見ない顔だな。そんなところで、何をしている』

 そのキツイ声色に、またもや俺の恋は醒めた。顔が可愛いだけの女なら、うちにも一ついる。そして、うんざりした声で返した。


「そんなの、地図を見ていたに決まっているだろ。おかげで、ここがどこだかわかったぜ。ここは迷宮都市グニガム。隣にあるのが、エルンスト大陸最大の国アーダラ王国の首都アマラだ。違うかい?」


 こちらの世界の言葉にはある程度の法則があるらしい。なんていうか、大陸にある国家は、地球でいえばラテン語を元にしたようなものだと。


 あてはまらない国もあるし、読み方とかよくわからないものもある。ここのは、合田が作ってくれた暗号解読表? のようなもので、ある程度わかるようだ。


 赤く記されたものは、アレイラの言葉みたい、というか世界共通みたいなものらしい。迷宮都市の名前は、どこの言葉でも同じようなのだ。神の名のように。


 そして、アーダラとアマラも、なんとか読めた。多少発音は違うかもしれない。所詮、日本人はカタカナ読みなのだ。


 それに、言葉の分岐があまりにも末広がりに広がっている。共通な部分、わかる部分も多いのだが。なんというか、地球で言えばアルファベットから、いきなりアラビア・インド。タイ・中国と変わる按配のところでは通用しない法則もある。地球のヨーロッパ言語でも、それぞれ多岐に渡る。


『そんな事も知らない奴が、この国で何をしている?』

「小うるさい女だな。人には人の事情があるもんだ。俺は探索者、お前も探索者。それじゃだめか?」


『ふん、胡乱な奴め。ここは、よそ者には煩い土地柄だ。せいぜい命には気を付けることだ』

 そう言うと、さっさと立ち去ってしまった。


 うおう、感じわりい。でも、可愛かったなあ。ちょっと、後ろ髪を惹かれる気分で彼女を見送った。


 まあいいや、お次は通貨の調査と調達だ。今回はきんを用意してきた。ここでは、あまり派手に地球の物品は出せない。御土産が欲しかったら、狩りをしなければならんだろう。車が使えないから、あいつらにはやらせられないかな。今回、少し潜ってみるか。


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