5-25 多分今までで一番禄でもない情報
俺達は再び王都へと向かった。前回、中庭の一部を常時ヘリポートとして使えるように交渉しておいた。
そこは立ち入り禁止区画に指定されている。俺達は許可なしでも着陸を認めてもらえる手はずになっている。無線が無いので、連絡のしようがない。
それに、こいつでは乗せて来られる人数も限りがあるのはわかっている。主に俺達しかいないし。
来た時には爆音がするので、すぐわかる。
指定した開けた場所に、Hマークを指示した通りに刻んでおいてくれてあった。今回も城の兵士が来てくれた。
「やあ、こんにちは。国王陛下にはお会いできるかな」
『ええ、すでに知らせはいっておりますので。あなた方がお見えになったら、ご案内するように命令されております。これから昼食ですので、おそらくそちらの方へ』
兵士達に連れられていく途中で、ふと思った。もし、こいつらがいきなり裏切ったり、あるいは反国家主義者みたいな奴がいて襲ってきたりしたら全員無事で帰れるだろうかと。
今までそういうパターンはなかったが、これからはそういう事も考えておかねばならないだろう。まあ、接近戦が出来ない人間はこの中にはいないが。イージスの盾魔法もある。
俺達は、わかりにくい城の中の通路を通り、近衛兵へと案内を引き継がれた。通路はそう広くはなく、攻め入った敵が一気に進軍できないようにとの配慮だろうか。道も入り組んでおり、観光には順路案内が必要なようだ。池田なら来た道がわかるかもしれない。
『ここです、中へどうぞ』
示された部屋へ入ると、国王がテーブルについていた。
『おお、来たか。今日は何用だ? まあかけなさい』
「はあ、急な用件があったのですが」
俺は食事をいただきながら、生贄の件ついて話していった。
『そうか。かつては、そのような事をやっていたとは聞くが、今もやっておるわけか。実は貴族の娘で攫われたものもおる。その消息は依然として不明だ。そうなると犠牲になったとみるべきか』
お食事時には相応しくない話題だったかな。
「あの、まさかと思いますが、以前に王女様が襲われたというのは」
『その可能性はある。大昔にも、この国で王女が生贄にさせられたこともあるのだ』
王様もいささか思う事があるようだ。へたすれば、あの時にエルシアちゃんも連れ去られた可能性があるのかいな。やだなあ。
「クヌードやグラヴァスでもお願いしておいたのですが、これを各所に手配していただけないでしょうか。先ほどのお話のように緊急性が高いのが、この4人の女性です」
女性4人、男性16人のパンフレットを差し出した。
国王陛下も珍しそうに印刷パンフレットを見ていたが、騎士を呼んで手配を任せた。
『手配はしておくが、クヌードに現れた者達なのだろう。この王都管轄で見つかる可能性は少ないぞ』
「はい、ありがとうございます。我々もそれは重々承知でございます。それでも、クヌードで見つかっていない現状では、こちらへ流れている可能性も考えられますので」
その後に、今回の土産として栄で買い込んだ七宝製品を出して、それについての説明を始めた。この世界に無い物らしく、随分と興味をそそられたようだ。
次回は陶磁器、和食器なんかも悪くはないかもしれない。漆製品も悪くない。
俺達は王宮を辞して、前回行きそこなった王都マルシェのフォルニック神殿へ行ってみる事にした。やや早めに用件が済んだので、なかなか来られないここの神殿に行っておこうと思ったのだ。
本当なら、ちょっとファルクットと遊びたかったが、それどころではない。池田もちょっと未練そうにしている。解体場のチビの顔も見て行きたかったが、クヌードはすぐ行けるからな。ここ王都は遠いから難儀だ。
航空写真から街の地図は作ってあり、神殿の場所もわかっている。GPSは使えないが、タブレットに落とし込んであり、スクロールしたりすればいろいろ見られる。
地図と写真の切り替えもできるし、目印となる物の画像も好きに取り出せる。専門の会社に頼んでおいたものだ。まだ機能は少ないし、地図も簡単なものだが、非常に助かる。
俺達はほどなく、大神殿へと辿り着いた。空からは見えていたのだが、地上で見るとまた大きい。高さは30メートルほどあり、ここも割合とモダンなデザインだ。
ギリシャの神殿のような厳かな感じはしない。何しろ、現役の神殿だからなあ。
なんというか、古代のデザインを現代の建築会社がモデファイして、この世界で今の時代の材料で建ててみましたという感じだろうか。現在進行形で実用に供されている建物というか。
いかにも神殿といった感じのデザインなのだが、地球のどこかでやられているエキスポのパビリオンといっても通用しそうな雰囲気もある。
例によって受付で、紹介状を色々見せると、中へ案内してくれた。
『あなた方が、世界を越えし者、選ばれし者なのですか?』
どっちかというと、興味本位のような感じで若い男性の神官が聞いてくる。まだ、少年といってもいいような感じなので、見知らぬ世界に興味があるのだろうか。まあ、そういう事に関心があるのは、きっと神殿の人だからだな。
「まあ、皆さん、そうおっっしゃいますがねえ。実際のところは、どうなんでしょうか」
『こちらが司祭様のお部屋になります。しばらくお待ちください』
そういって彼は取次ぎのために入っていった。
「それにしても、神殿はどこも親切で助かるよな」
「まあ、別に神殿の人達が悪い事しているわけではないからなあ」
「日本の新興宗教とは違うよ。変な壷とか売りつけないだろうし」
間もなくドアが開いて、俺達は招き入れられた。
司祭さんは、40歳くらいの落ち着いた感じで、やや白いものの混じった茶色の髪に同じく茶色の目をしていた。
今まで会った神殿関係者の中では、ちょっと狸な感じもする。顔付きと小太りな雰囲気から、なんとなくそう思う。
『やあ、おまたせいたしました。私がここの神官でクレードルというものです。今日は何の御用ですかな』
俺達を値踏みするような感じで訊ねてくる。紹介状も王様にグレードアップしたしね。
「いえ、色々とお話を伺いたいと思いまして。いわゆる邪神派と呼ばれる方々の事、聖魔法と生贄の儀式と、生贄にされる人について。あと、ダンジョンの異変や、選ばれし者の伝承についてなど、なんでも宜しいので。我々はそこに書いてくれてある通りのものです」
司祭さんは少し思案する風だったが、やがて口を開いた。
『それを聞いてどうしますか。伝承の通り、戦うのですか?』
「いいえ、別に」
俺がきっぱりと言ったので、逆に相手は驚いたようだった。
『それはまた。使命はお果たしにはならないと?』
「それはわかりませんが、別に私は特に選ばれし者という自覚はありません。
この世界へは基本的に商売をしにやってきています。そうしたら、この世界には私の国の人がたくさんやってきてしまって帰れない事や、その人達の中で生贄にされるかもしれない人がいる可能性がある事を知りました。
更に、こちらの世界で儀式が続けられると私の世界に大きく被害が及びそうであると。そうなれば私の家や家族もそれに巻き込まれます。
あと、国の方から調査をしてほしいと言われていますので。
場合によっては戦う事もあるのかもしれませんが、それは避けられない時、必要な時に限定されます。
我々は調査隊のようなもので戦闘部隊ではないのですから。
今まで戦ったのは、魔物狩りのため、魔物からの襲撃に反撃した時、盗賊の襲撃を退けた時、町のチンピラに襲われたので反撃をした時。それくらいですよ」
ふうん、と腕組みをして考えながら司祭は言った。
『しかし、これからはそうもいかないかもしれないのですよ』
「へ、へえ、それは何故」
俺はやや顔に皺を寄せつつ訊いてみる。嫌な予感がするな。
『最近、信徒の方から聞いた話ですが、いわゆる邪神派の方がこんな事を言っていたそうです。
【聖なる儀式を邪魔する愚かな者が現れたとの噂がある。我らの目的に障害となる恐れがある。そのような者がいるというのなら見つけ出して殺してしまえ】と。
その方は、それが伝承に聞く選ばれし者であるというのなら恐れ多い事だ、彼らが殺されてしまうようなら、この世界には大きな災いが訪れるかもしれない、と危惧されておりましたな。
お気をつけなさい、そして出来得るならば、ご使命をお果たしください。
あまり無闇に選ばれし者であると、世界を越えし者だと言わぬほうがよいかもしれません』
なんて、碌でもない事を。念話を使ってくれていたので、俺達全員の顔が引き攣っていた。




