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綻び

二人が結ばれてからの数日間

夢のような毎日が続いた。


レイフは完璧な夫だった。

優しく、甘く

これ以上望むべきもない、最高の恋人。

その彼に守られ、愛され

クリスティーナは咲き誇る花のように、美しさを増して行った。






「いってらっしゃい、レイフ」


「ああ。今日は少し遅くなると思うが・・・」


妻の輝くような笑顔が少し翳ったのを見て

慌てて付け加える。



「なるべく早く戻る。だから・・・そんな顔をしないでくれないか?」


「ごめんなさい、私・・・」



フッと笑顔になったレイフが、妻に優しいキスをした。











「お嬢様、お出かけですか?」


「ええ。レイフとランチを取ろうと思って」



彼のオフィスへ行こう。

そう思い立ったのは、夫の後姿を見送った時のことだった。



帰りが遅いって言ってたし

彼だって、食事は取らなくちゃいけないもの。


「そうね、寄り道もしたいから、帰りは夕方になると思うわ」

言いながら玄関へと向かったクリスティーナだったが

ふと思いついて立ち止まるとパッと振り返った。


「ばあや、私のことをいつまで『お嬢様』と呼ぶつもり?」


「まぁ、私としたことが。

 申し訳ございません。その・・・『若奥様』」



クリスティーナは自分に対する新しい呼び名に満足すると

ばあやへ手を振ってから、運転手に軽く頷いて車へと乗り込んだ。






「ここが、レイフの会社なのね」


広いロビーを、受付に向かってまっすぐに歩いていく。


ブロンドの受付嬢がにこやかにクリスティーナに向かって微笑んだ。


クリスティーナもニッコリと微笑み返す。



「レイフに取り次いでいただける?」


クリスティーナの言葉に驚いたとしても、受付嬢は完璧な笑顔を

崩さずに言った。



「アンダーソン社長とお約束でございますか?」


「ええ、いえ、約束はしてないんだけど」


「申し訳ございませんが、お約束のない方をお取次ぎする訳には・・・」




困ったわね・・・やっぱり先に連絡しておけばよかった。

クリスティーナが自分の名前を告げようかどうか迷っていると

背後から男が声をかけてきた。




「どうかしたかい、アンナ?」


「それが・・・こちらの方が社長にお会いになりたいと仰って・・・」




男がクリスティーナの顔を、そして姿をまじまじと見つめたかと思うと

突然笑顔になって言った。




「スペンサー伯爵令嬢ですね?ようこそいらっしゃいました。

 私がレイフのところへご案内いたしましょう」



そして、受付嬢にウインクをしながら付け加えた。



「こちらは我らが社長の奥様だ。今後失礼のないように」







『社長の奥様』その言葉の響きに大いに気をよくしたクリスティーナは

自分を案内してくれている男をこっそりと観察した。

その視線に気づいたマックスがにこやかに挨拶をする。




「マックスです。マックス・ウルヴァースと申します。

 どうぞお見知りおきを」



「クリスティーナです。こちらこそよろしく」


クリスティーナは、気になっていることを尋ねた。



「ウルヴァースさん・・あなたはレイフとは・・・」


「マックスと呼んでください。

 ええ。子供の頃からの付き合いです」



「子供の頃から・・・今度、彼の子供の頃の話を

 聞かせていただける?」



「ええ。喜んで。」



「だったら、私のこともクリスティーナと呼んでくださいね?」



「それは・・・・・」



反射的に断ろうとしたマックスだったが

彼女の顔を見て、それが不可能なことに気づいて笑った。



「クリスティーナ、あなたはどうやらレイフと同類らしい」



彼女はレイフがよくするように、眉を上げて見せた。



「それは・・・褒め言葉と取っておきますね」



二人は同時に笑い出した。









「ここがレイフのオフィスです」


マックスがノックしてドアを開けた瞬間

クリスティーナが目にしたものは

レイフと、彼の首に手を回して彼にキスをする女性の姿だった。

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