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後朝

「ん・・・・・」


クリスティーナは、窓から差し込む朝日の眩しさを感じて目を覚ました。

なんだろう・・・この馴染みのない重み・・・。

幸せな夢の中を漂っていた彼女は、このまま眠っていたかったのだが

しぶしぶ、そしてゆっくりと重い瞼を開いていった。



整った男らしい顔立ちの夫が眠っているのが目に入った瞬間

彼女の脳裏に、昨夜の全てが一気に蘇り、思わず体を起こそうとしたのだが

何も纏っていない体には、シーツで隠れてはいたが

同じく何も身に着けていないのだろう、夫の腕がしっかりと回されていた。




まるで、眠っている間に

クリスティーナが居なくなってしまうのを恐れているかのように。







眠っているレイフは、いつもの厳しさが影を潜め

傷つきやすそうな少年のようでさえあった。

いつも彼女を魅了してやまない紺碧の瞳は閉じられていたが

長い睫毛が影を落とした寝顔は、それでもなお魅力的だった。



通った鼻筋、そして唇へと視線を巡らせていくうちに

彼女の思考は、どうしても夕べの出来事へと戻って行くのだった。







怒りをぶつけ合うような口付けは、いつの間にか互いを探り

そして魂を分け与えるような深いものへと変わっていった。


まるで、離れ離れになっていた魂の片割れにであったかのように

二人は互いを求め合った。



だが、レイフは優しい恋人だった。

彼女に経験のないことを見て取ると、それからはこれ以上望むべきもないほど

優しく、忍耐強く彼女を導いてくれた。

レイフの腕の中で、彼女は自分が花開いていくような心地を味わっていた。




熱い唇が、舌が、指先が、彼女を惑わし、燃え上がらせていく。

彼が付けた唇の跡が、今も体中で疼くような気がした。





年若い妻を気遣いながらも、彼は彼女を追い詰めていく。

時に焦らし、時に翻弄しながら、それでも彼は最後の一瞬を躊躇っていた。




「クリスティーナ、いいのか?

 後で後悔するようなことになるかもしれないが・・・」



「後悔などしないわ。お願い、レイフ、私を貴方のものに・・・・」




あれは、本当に私が言ったのだろうか。

いや、言ったことを悔いているわけではない。

あの時、もし私が「やめて」と一言言えば、彼はやめてくれただろうけれど

やめて欲しくなかったのだ。他でもない、この私自身が。




私の懇願は、最後まで言葉にすることができなかった。

私の言葉を聞いたレイフの瞳の色が、黒かと見まごうほど濃くなったかと思った瞬間

彼が私の身に自分の身体を重ねたから。

あの瞬間を、私は生涯忘れることはないだろう。





「気が済んだかい?」



レイフの顔をうっとりと眺めていた私は

眠っていたとばかり思っていた夫が、かなり前から目を覚ましていたことに

まるで気が付いていなかった。




「いやね・・・いつから起きていたの?」


「君が私の腕から抜け出そうとした時から・・・かな」




それじゃ、私が目を覚ましたのとほぼ同じ時から?

自分が彼をかなり長い間観察していたことを思って

クリスティーナはパッと赤くなった。




「そうしていると、初々しい花嫁のようだ。

 いや、実際そうなんだが」



レイフが微笑みながら言う。

ますます赤くなりながら、彼の腕から抜け出そうと試みるが

反対に、彼に組み敷かれてしまった。




「美しい妻を、初夜の翌朝、やすやすと離す様な間抜けなことはしたくないんでね」




ゆっくりと彼女に口付けた後、赤くなった喉元から胸へと

唇を這わせていく。




「レイフ・・・もう、明るいわ・・・」


夕べは闇夜だったから、多少大胆なことをしても平気だった。

でも、今は・・・・・。

恥ずかしさに身を捩って彼から逃れようとするが

しっかりと抱きしめられてしまう。




「こんなに美しいものを隠そうとすることはないだろう?」



耳朶に唇を這わせながら、彼が囁く。



「見せてくれないか、君の全てを。

 自分がどれほど美しいものを手に入れたのか、確かめさせてくれ」





『手に入れたもの』


その言葉の意味することが二人を苦しめることになるのだが

互いに夢中になりすぎていた二人は、そのことに気づく余裕はなかった。

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