挑発
強い風が吹けば折れてしまうのではないかというくらい
繊細で儚いのは見かけだけのこと。
深窓の令嬢であるにもかかわらず
クリスティーナは芯のしっかりとした自分の考えを持った女性だった。
そのことには結婚前から気づいてはいたものの
彼に対しても少しも臆することなく立ち向かおうとしている姿に
レイフは内心感嘆し、彼女に惹かれている自分を自覚していた。
「赤毛の女は気が強いというが・・・本当なんだな」
自分の気持ちに抗うかのように、ワザと素っ気無い声を出す。
彼女の緑色の瞳が、一瞬燃え上がったように見えた。
これが見たくて挑発したのかもしれないな。
レイフは自嘲気味に、心の中で呟いた。
「私の髪は、『赤毛』ではないわ」
静かな口調ながら、怒りがピリピリと空気を震わせているようだった。
先ほどまで見え隠れしていた脆さは完全に消えていた。
「では、なんと呼べばいい?『赤褐色』?」
手負いの動物を追い詰めるように、ゆっくりと彼女に近づいていく。
気を抜けば、その爪で引っかかれてしまうだろう。
「おかしな人ね。人を怒らせてそんなに楽しいの?」
満足げに微笑むレイフに、クリスティーナはますますカッとなって
思わず手を振り上げたが、その手もなんなくレイフに掴まれてしまった。
「離してよっ!」
「離さない。そう言ったらどうする?」
嘆かれるより、憎まれた方がいい。
彼女の怒りを目にして、レイフはその思いを強くしていた。
なにより、怒り狂った彼女は美しかった。
レイフに引き寄せられ、瞳を覗き込まれた瞬間
彼女は怒りよりも別の感情が沸き起こってくるのを感じていた。
「レイフ・・・・・」
思わず口から零れた彼の名前は、彼自身の唇によって奪われてしまい
声になることはなかった。
憎むべき相手の娘。
復讐のための道具。
唇を重ねあう二人の脳裏からは
そんなものは綺麗に消え去っていた。




