プライド
そういえば、この人のカジュアルな格好を見るのは
初めてかもしれない。
これまでレイフのビジネススーツ姿や
婚礼の時の正装した姿しか見たことのなかったクリスティーナは
ジーンズにセーター姿の彼に、思わず見惚れている自分に気がついた。
ネイビーブルーのセーターは、彼の黄金色の髪を更に引き立て
紺碧の瞳に深みを与えていた。
自分自身の魅力を、十分承知している大人の男だというのが
まだ年若いクリスティーナにも見て取れた。
それでいてカジュアルな装いが、いつもより彼を若く見せていたのだが。
「それで?私は合格点をもらえるのかな?」
先ほどまでの怒りはどこへ行ったのかと聞きたくなるくらい
レイフの様子は穏やかだった。
そんなに簡単に気持ちの切り替えができるものなのだろうか。
そうでないとしたら・・・感心するくらいの自制心の持ち主か
もしくは、自分の気持ちを隠すことに長けているのだろう。
クリスティーナはもう1度、吟味するかのように
彼のことをじっくりと眺め回した。
内心の動揺を隠しながら、努めてそっけない声を出そうと試みる。
「私にどう思われているかなんて、貴方にとっては
さほど重要とは思えないのだけど」
レイフの眉が上がる。
「なぜそんなふうに思うのか、聞かせてくれないか?」
なぜ?貴方がそれを聞くの?
いいわ。教えてあげる。
「理由はどうあれ、結婚したばかりの相手を
連絡の1本も寄越さないで10日も放っておいて
それでも貴方は、その相手を重要視してると言えるの?」
冷静に発したつもりの言葉は、語尾に近づくにつれて
小さく、そして震え声になってしまった。
私は、こんな弱い女じゃない。
目に浮かんだ涙を瞬きで押し留めると
クリスティーナはしっかりとレイフと目を合わせた。
「私は、貴方にお金で買われたのかもしれないけど
最低限の敬意は払っていただくわ」
「君を金で買ったつもりはない!」
クリスティーナの言葉を即座に否定したレイフだったが
それが変えられない真実であることは
クリスティーナも、そしてレイフも十分理解していた。
「あら・・・父の全てを奪って破滅させた挙句
病に倒れた父からこの屋敷まで取り上げると
私を脅して結婚させたのは、貴方ではなくて?」
口にした事実に、自分自身が傷つくのを感じながら
それでもクリスティーナは凛とした姿勢を崩さなかった。




