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望み

式が終わり、夫となった男に腕を取られたまま

クリスティーナは自分の部屋へと戻ってきた。




お母様のウェディングドレスを脱がなくては。

でも、その前にしなければならないことがある。

彼女は男に向き直った。




「送ってきてくださってありがとう。

 着替えをしたいので、出て行ってくださる?」




まるで、使用人か出会ったばかりの見ず知らずの他人に言うような口調が癇に障ったのか

夫となった男の眉が上がる。


てっきり文句のひとつでも言われるか

この間のように何か命令されるのかと思ったが

その予想は見事に覆された。



「私のことなら気にせずに着替えたらいい」


ネクタイを外しながら部屋の中央にあるソファに座り

自分の部屋かのように寛ぎながら、男がニヤリと笑った。



「新妻の着替えを・・・愉しまない男はいない。そうだろう?」



オフショルダーのドレスは、上品なものではあったけれど

肩から背中にかけてはかなり開いていて

肩先まで出た襟元からのぞく鎖骨が、ただでさえ華奢な彼女に

更に繊細な印象を与えていた。

彼の視線がそのむき出しの肩から、小ぶりだが形のいい胸へと下がっていく。


触られるどころか、5メートルは離れたソファから動いてもいないのに

視線だけで服を脱がされているような錯覚に陥って

クリスティーナはその場から動くことさえできなかった。




「どうした?着替えないのか?それとも・・・」




男がゆっくりと立ち上がり、彼女の視線を捉えたまま二人の距離を縮める。




逃げなくては。

頭の中では警報が鳴り響いていたけれど

催眠術にかかったかのように、体を動かすことができない。



むき出しの肩に手をかけながら、男がクリスティーナの瞳を覗き込む。



「私に、手伝って欲しいのかな?」



何か言わなくては・・・

開きかけた唇を見た彼が目を細めて言う。




「そんな顔をするんじゃない」



「え・・・・?」



「キスして欲しい。男を誘う顔だ」



「そんな、私は・・・・・っ!」





式の時とは似ても似つかない口付け。

まるで、怒っているかのように重ねられた唇が彼女の唇を貪る。

肩に置かれた両手は、いつの間にか我が物顔に彼女の体を探っていた。




「いや・・・」



弱弱しい声は、本当に私の物なの?

それでもなんとか逃れようと首を振った私の首筋に唇を這わせながら

男が呟く。




「嫌じゃないだろう?」




嫌じゃない?

分からない・・・今まで、私にこんな風に触れた男はいなかったし

こんな風に感じるなんて、思ったこともなかったから。





彼の口付けにすっかり酔わされて

ベットへ横たえられたことにも気づいていなかった私は

彼のポケットの中で微かに鳴る携帯の呼び出し音にハッとなった。




彼が舌打ちをすると、ベットから降りて携帯を取り出した。




「ああ、私だ。いや、構わない。

 そうだな。1時間もあればそちらに着けるだろう。

 話はそれからだな」





見ず知らずと言ってもいい男に抱かれて

抵抗するどころか、嬉々としてそれに応えていたなんて。

恥ずかしさにシーツの下に潜り込むのと同時に彼が振り返った。








「私は出かけなければならなくなった。

 続きを楽しみに待っていてくれないか、クリスティーナ?」



「続きだなんて!貴方は・・・」




この結婚は形だけのもの。

彼はそう言ったはずなのに・・・・。




私の考えていることが分かったんだろう。

男が、少しバカにしたように笑った。





「あの時、名実ともに君を私の妻にする。

 そう言ったら、私の求婚プロポーズにYESとは言わなかった・・そうじゃないか?」




確かに・・・そうだったかもしれない。

例え他に選択肢がなかったとしても

少なくとも、もっと悩んだだろう。




「貴方は・・・この結婚を本当のものにする、そうおっしゃるの?」




ソファに放ってあったネクタイを拾い上げながら

彼が笑った。






「それは、君次第だ、クリスティーナ。

 私には、嫌がる女に無理強いする趣味はない」




ドアを開け、部屋を出て行こうとしながら

振り返った彼はいつになく楽しそうだった。


それはそうだろう。

さっきの私の反応を見れば、私が彼の意のままになるのは

誰の目にも明らかだった。






閉じられたドアに向かって呟く。





「貴方は、本当は何を望んでいるの?」




私には、彼の気持ちが全く分からなかった。

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