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渇望

パーティの翌日。

クリスティーナはなんともやりきれない気分で目を覚ました。

思いは、どうしても夕べ再会したライサと、その赤い唇へと引き戻されてしまう。



レイフの首に我が物顔に手を回し

彼は自分のものだと言わんばかりにキスしていたライサの

真っ赤なルージュが引かれた唇。





「ああ、嫌。彼女のことなんて思い出したくないのに」





クリスティーナは出かけることにした。

これ以上ここにいたら、考えたくないことばかり考えてしまうのは

目に見えていたし

なにより、優しいエドワードをこれ以上心配させたくなかった。









「クリスティーナ様、お出掛けですか?」



身支度をして、そっと屋敷を抜け出そうとしたクリスティーナは

背後から声を掛けられて、飛び上がらんばかりに驚いて振り返った。




「ああ、ハワード。ビックリさせないで。」



「申し訳ございません。何か御用は・・・と思ったものですから」




完璧な執事である彼は、「こんな時間にどこへ行くのか」とは尋ねなかったが

その瞳は気遣わしげだった。




「ごめんなさい。少し散歩でもして来ようと思っただけなの」



「それでは、すぐにお車をご用意いたしましょう」



「ううん、いいの。歩きたいから、このまま行くわ」



クリスティーナの言葉に、ハワードが僅かに眉を上げた。



「しかし、エドワード様が・・・」



ご心配なさいます・・・ハワードはそう言いたいんだろう。

でも、クリスティーナは譲るつもりはなかった。




「ごめんなさい、ハワード。

 すぐに戻るから。エドワードにもそう伝えて」




彼の返事を待たずに、クリスティーナは屋敷の扉を開けて外へと歩き出した。












当てもなく歩いていたクリスティーナだったが

しばらくして停車中のバスが目に入った。



深窓の令嬢であるクリスティーナは、もちろんバスに乗った経験などなく、

乗り込む人たちを不思議そうに眺めていると

後ろから来た年配の女性に声を掛けられた。



「お嬢さん、乗るの、乗らないの?」



振り返ったクリスティーナは彼女に尋ねた。



「このバスは、どこへ行くんですか?」



「サウスアベニューを通って、アンガスが終点よ」



サウスアベニュー・・・レイフの会社のある場所。

クリスティーナは少し考え深げな表情をすると、その女性に礼を言って

彼女の後からバスへと乗り込んだ。







今のクリスティーナには、まだレイフに会う心の準備はできていなかった。

だが、一目でいいから彼に会いたい。

サウスアベニューという地名を聞いた瞬間から、彼女の頭の中には

その思いしかなくなってしまっていた。





バスを下りて歩き始めたクリスティーナは

レイフの会社の位置が全く分からないことに気づいて途方に暮れた。



「どうしよう・・・どっちへ行ったら・・・」



あたりを見回しながら歩いていたクリスティーナは

いきなり肩を掴まれて振り向かされた。



「クリスティーナ!帰って来てくれたのかい?」



「マックス!ああ、ビックリした・・・今日はこれで2回目よ」


「2回目?」


ワケが分からないといった表情のマックスに、クリスティーナが微笑んだ。



「いいえ、いいの、こちらの話。

 あなた、いつもこんな早くから会社へ行くの?」



クリスティーナの言葉にマックスが苦笑しながら応える。


「いや、今はマラソンの途中でね。健康のために毎朝走ってるんだ」



そう・・・微笑むクリスティーナに向かって

マックスも笑顔を返した。



「よかった、元気そうで。

 それに、これでレイフも元気になるだろう」



「レイフ?レイフがどうかしたの?」



顔色を変えるクリスティーナを安心させる言葉を掛けようとしたマックスだったが

ふと考えを変えて、深刻な表情で言った。



「数日前から出社停止にしてあるよ」



「出社停止?」



「ああ。ロクに眠らない、食べない。あのままでは倒れてしまうからね。

 しかも、檻の中の熊みたいに誰彼構わず当り散らす始末。

 お前は用なしだって言ってやったんだよ。」




社長にそんな口をきけるのは、幼馴染の彼だからこそだろう。

クリスティーナがそんなふうに思っていると、マックスが今度は彼女に向かって

ウインクしながら言った。



「レイフをいつものアイツに戻せるのは、君だけだよ」


「私は・・・」


反射的に違うと答えそうになったクリスティーナだったが

彼が酷い有様だと聞いて、嬉しいと思うことを止められなかった。

自分が惨めだったこの数日、レイフが同じように過ごしていたこと

そして自分でなければ彼を元に戻すことができないというマックスの言葉。

それらは、傷ついた彼女の心に、ゆっくりと染みこんで行った。




「とにかく、レイフの様子を見に行ってやってくれないか?

 多分、夕べも深酒をして、今頃は泥酔してるはずだから」





眠っているレイフを見るだけなら・・・・・。

クリスティーナは頷くと、マックスの後についてレイフのマンションへと向かった。








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