責任と誇り
「そろそろ、訳を話してくれてもいいんじゃないかな?」
クレランス公爵家の豪奢な応接室。
普通なら怖気づいてしまうほどの内装や調度品に囲まれたこの部屋も
クリスティーナにとっては、子供の頃から慣れ親しんだものばかり。
逆に気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
彼女が目に見えてリラックスしたところを見計らって声を掛けたのだが
クリスティーナのカップを置く指が震えるのを見て
もう少し待つべきだったかと、エドワードは後悔した。
「いや、いいんだ。別に、無理に話さなくても・・・」
「優しいのね、エドワード」
「僕が君に優しくなかったことがあったかい?」
茶化すように言った言葉だが、それが真実であることは
二人ともよく分かっていた。
家柄も釣り合いの取れた似合いの二人に
これまで婚約の話しすら持ち上がらなかったのは
二人が互いに、公爵家と伯爵家の跡取りであるからに他ならなかった。
そうでなければ、本人たちの思惑など関係なしに
両家は姻戚関係を結んでいたことだろう。
爵位や領地への責任と誇り。
それらが彼らに、互いへの気持ちの枷となっていたことは否めない。
だが、本当にそれだけだろうか。
もし、エドワードがレイフだったら・・・
クリスティーナは急いで自分の考えを否定した。
私ったら、何を考えているの。
しかも、エドワードとレイフを比べるなんて。
目の前の、兄のように慕ってきたエドワードを裏切っているような
バツの悪さを感じていたところで、彼から顛末を話すよう促されて
思わずカップを置く手に動揺を見せてしまったけれど。
今まで、プライドが邪魔をして、エドワードに話すことが出来なかったのだが
仕方がない・・・こうなっては彼に話すしかないだろう。
クリスティーナは覚悟を決めた。
「全て、お話しするわ」
「バカだよ、君は」
全てを話し終えたクリスティーナに向かって
エドワードが気色ばんで言った。
「どうして僕に話してくれなかったんだ?
僕なら、君に手助けすることくらいわけないって
思わなかった?」
「それは・・・何度も話そうと思ったわ。でも・・・」
「でも?」
「事は、私だけの問題ではないんだもの。
私のことだったら、とっくに貴方に話していたでしょうね」
クリスティーナは窓の外に目を向けながら
初めての出会いから数日後――レイフが父を訪ねてきた日のことを
思い出していた。




