見つからない…
一夜が明けた。念のために二番目の要より少し離れた場所で野営をしたけれど、敵兵たちが戻ってくる様子もなかった。それでも、半日もすれば結界で戻れなくなった彼らが戻って来る可能性もある。本来ならば早々にここを離れるべきなのだけど、オーリー様が見つけられないだけに離れ難かった。
「オーリー様、一体どちらに……」
魔術での探索も使ったし、もしかしたらと思って周辺に広範囲の治癒魔術をかけてもみた。怪我で動けない可能性もあったからだ。それでもオーリー様は見つからなかった。こうなると敵に連れていかれた可能性が現実的になってきた。
「お嬢様、一度、屋敷に戻りましょう」
「アルノー?」
既に日が傾き始めたところでアルノーがそう切り出した。既に一日以上ここでオーリー様を探したけれど髪の毛一筋の手掛かりも得られなかった。もしオーリー様が連れ去られたのなら、ここにいても意味はない。ないのだけど……
「でも、もしかしたらどこかにいるかもしれないわ。怪我が悪化して動けないかもしれないし……」
「ですが、お嬢様の治癒魔術と探知魔術でも変わりなかったのですよね?」
「それはそうだけど……オーリー様は結界魔術の達人だわ。結界で身を守っていたら私にだって見つけるのは無理よ」
そう、怪我をして結界で身を守り、動けるようになるのを待っているかもしれない。もしくは魔力を使い切って動けなくなり、身を隠しているかも。そう思うとこの場を離れ難かった。それに敵が戻ってくる可能性もある。ここには物資が残っているのだから。敵の部隊の中にオーリー様がいる可能性も否めない。
「それでも一旦戻るのが最善です。殿下をお探しするなら応援が必要です。もし敵の手の内にあるなら尚更です。この人数では奪還もままなりませぬ」
アルノーの言う通りだ。それはわかっている。わかっているけれどオーリー様を残して戻るなんて考えられなかった。もし戻っている間に何かあったら? 手がかりを見失ってしまったら? ここから屋敷まで二日はかかるだろう。戻って来るのは四日後だ。
「こっちの食料も尽きるし、戻れなかった敵に襲われたらそれこそ目も当てられねぇよ」
「そうね。もしオードリック様が敵に捕らわれたとしても危害を加えたりはしないでしょう。生きているからこそ人質は有効なカードになるんだから」
そう言われてしまうと、言い返せる言葉もなかった。彼らに諭された私は、翌朝屋敷に戻ることにした。離れ難かったのはエドガール様もだろう。だけど彼も援軍の必要性を強く訴え、苦渋の表情ながらも帰路に着いた。結界の修復という我が領の悲願を達成したのに、帰りは誰もが口を閉ざして重苦しい空気に包まれていた。
二日かかる行程を一日半で戻った私は、直ぐにお祖父様にオーリー様の捜索を願い出た。お祖父様も直ぐにあの地に詳しい者を集めてくれて、大掛かりな捜索を行った。魔術師や捜索に秀でた犬たちも動員してのそれは、我が領の総力戦とも言えるほどの規模で、私やエドガール様も同行した。
「オーリー様の魔力の形跡は、確かにあるのに……」
二番目の結界の要の周りには、今もオーリー様の魔力の残余が感じられた。結界からも強い魔力が感じられている。そりゃあ、結界の魔石が完全に機能した今、魔力を注いだオーリー様の魔力が残っているのは当然なのだけど。
最後にオーリー様の姿が確認された二番目の要の周辺も、厳重に調べた。傷を負ったはずだけど周りには血痕はなく、傷が浅かったであろうことが伺えた。それがせめてもの救いだろうか。
範囲を広げての十日間の捜索の間に、取り残された敵兵が三十人ほど捕らえられた。部隊を率いていたのはまだ若い士官で、彼の話では部隊は五十人ほどいたが、十二人は死亡し、残りは戦闘のどさくさなどで逃げ出したという。逃げたのは隣接する土地の村人で、彼らも街道近くの集落に逃げ込んでいるのが見つかった。ここ数年は国境の行き来があったせいか彼らの中には集落の者と顔なじみだった者がいたのだ。彼らを調べてもオーリー様と繋がりは何も見つからなかった。
「本当に、一体どこへ……」
いくら山深い辺境とはいえ、これだけ調べても何もわからないなど信じられなかった。魔術も犬も地元の猟師たちもオーリー様の形跡すら掴めないのだ。
「消えてしまったみたいね」
「お祖母様……」
「これまでも行方不明者はいくらも出たが、こうも足取りが掴めないことは珍しい……」
お祖父様も首を傾げるばかりだった。実際、行方不明になっても服の一片や靴の片方、持っていた筈の剣やナイフなど、所持品の一つくらいは見つかるものだ。
「それすらもないなんて……やはりエドガール様が見た光が関係しているのでしょうか……」
こうなると、何か魔術が使われた可能性が高い。それでも、結界が完成しているので隣国に転移させられた、なんて事はあり得ないだろう。空間転移は理論上は可能だと言われているけれど、結界を通り抜けるのは不可能だと言われているから。それに、それが成功したら世界的な大ニュースになっている筈だ。
(あと残っている可能性もあるけれど……)
こうも見つからないなら、もう一つ残っている可能性もある。だけど、それは口にするのは憚られる内容だったし、そんなことは考えたくもなかった。




