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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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ミシュレ領へ

「悪いが……帰ってくれ……」


 訪ねた相手は完全拒否と全身で主張していた。


 私は翌日、エリーとジョエル、そしてお祖父様が着けた護衛騎士二人を連れて、かつて宮廷薬師だったというブノワ殿を訪ねた。オーリー様とエリアーヌ様の事が心配だったけれど、オーリー様の回復を優先した方がいいと思ったし、お祖母様が何とかすると言ってくれたのでお願いした。薬を止めるのも危険だと言われれば、一刻も早く対処法を見つけたかった。

 二日馬で駆けて辿り着いたルドゥーの村は、国境沿いの寒村とも言える小さな村だ。村の外れに住んでいるブノワ殿にルイス先生からの手紙を渡して、事情を説明しようとしたのだけど……話を聞いて貰える雰囲気ではなかった。ドアを僅かに開けるだけで顔すらもろくに見せないブノワ殿は、全身で私たちを、ううん、多分世間を拒否していた。お陰で顔もわからない。


「俺はもう誰とも関わらない。帰ってくれ」

「あ! ま、待ってください……!」


 言い切る前にバタンと大きな音を立ててドアを閉められ、ついでに鍵まで掛けられてしまった。


(そ、そんな……話も聞いて貰えないなんて……)


 ルイス先生の弟子だと聞いていたから、先生の手紙があれば協力して貰えると考えていたけれど、それは相当甘かったらしい。さすがに無理やり押し入ることも出来ず、私たちは呆然とするしかなかった。


「こりゃあ、簡単じゃねぇな」

「ええ。出直した方がいいかもしれないわ」

「……そうね」


 その後も何度か名を呼んだけど、家の中からは物音一つしなかった。また来ますね、とドア越しに呼び掛けてその場を後にした。


「で、どうする?」

「そうね。村の人にブノワ殿のことを聞いてみましょう」


 あまり時間がないし、今押しかけても話を聞いて貰えるとは思えない。とにかく彼のことを知れば突破口が見つかるかもしれない。

 村の人に話を聞くと、彼は世捨て人のように人との交流を避けているという。それでも彼の作る薬はよく効いて、医者がいないこの村ではとても重宝しているのだという。彼の態度も何か理由があるのだろうと、彼のことはそっとしているのだとも。時々見目の綺麗な人が訪ねてくるが、悉く無視されているのだという。

 そんな彼には孫娘が一人いて、彼女が身の回りの世話をしているらしい。気立てのいい可愛らしい子で、ブノワ殿も目にいれても痛くないほどに可愛がっているという。今日は隣町まで同じ年の娘たちと一緒に祭りを見に行っていて不在だという。


「お孫さんがいる時に来た方が、話が通じるかしら」

「そうね。そっちの方がまだ話がわかるかも」

「じゃ、マリエル様のところに行った帰りに寄りましょう」


 孫娘がいてくれたら、少しは話も聞いてくれそうな気がした。ここで暮らすのもいいけれど、うちに来てくれたら生活の質も上がるだろうし、彼女にとっても悪い話ではないと思う。そこに望みを見出した私たちは、マリエル様のところに向かった。




「まぁ! アンジェったら相変わらずね」

「お久しぶりですわ、マリエル様!」


 久しぶりに再会した級友は、相変わらず元気だった。彼女はミシュレ家の次女だけど婿を取り、病弱な嫡男である兄を支えながら領地経営に勤しんでいる才女だ。活発で行動力もあり、家族や領民を大切に思っている。家族と仲のいい姿は、学園時代の私には眩しすぎるほどだった。


「今夜はゆっくりお喋りしましょう」


 晩餐を終えた私たちは湯あみをした後、彼女の部屋で休むことになった。勿論夜通しお喋りをするためだ。


「勿論よ。たくさん話したいことがあるわ」

「そうそう、婚約したのよね。しかもあの王子殿下と。詳しく聞かせて貰うわよ」

「わ、わかったわ」


 そう言えばオーリー様のことはまだ彼女には話していなかった。にっこり浮かんだ笑顔には、逃がさないと書かれているようにも見える。これは……根掘り葉掘り聞かれること間違いなしだ。私はこっそりとその覚悟を決めた。


「……何と言っていいのか……ご愁傷様?」


 話を聞き終えた彼女から出てきた言葉は、微妙な労わりの言葉だった。さすがに全てを話すわけにはいかないので、オーリー様の毒のことや魅了されていなかったことなどは伏せて、当たり障りのない話をするに留めた。下手に余計なことを知って彼女が不利な立場に立たされるのは本意ではないからだ。

 それでなくても彼女の家はアーリンゲ侯爵家の分家で、貴族社会では微妙な立場にある。アーリンゲ侯爵家は王太子妃の実家で、今やその地位から引きずり下ろそうとする者が虎視眈々と狙っている。ミシュレ子爵家もその影響で些細なことも瑕疵になり兼ねないのだ。


「そこまでではないと思うけど……」

「だけど、そこまで訳ありだとは思わなかったもの。ううん、廃嫡された殿下を押し付けられるなんて思いもしなかったわ」

「それ以上は不敬よ」

「わかっているわよ。それで……何か聞きたい事があったんじゃない?」


 話が一通り終わり、知識欲を満足させたマリエル様がそう切り出した。さすがに鋭いというか、私がただ遊びに来ただけとは思わないところは領主代行をしているだけある、といっていいだろうか。


「……最近、ベルクール公爵家からの接触がなかった?」


 我が家の影の情報だからガセとは思わないけれど、ミシュレ家からすれば主家のアーリンゲ侯爵家と敵対するベルクール公爵家と連絡を取るのは叛意を疑われてもおかしくない。その事をマリエル様は知っているのか、ミシュレ子爵が何をお考えなのか、それが知りたかった。







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