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43 終業式1

「……あんま寝れなかったな」


 昨晩は台風による雨風や雷で煩くて寝付けなかった……のではなく、隣の部屋に超美人が寝ているからです、はい。

 なんなんだろうね、成り行きや訳アリで女性が泊まる事は何回かあったのに、年上美人教師ってだけで妙に罪悪感というか背徳感があるこの感じ。おまけにそれが教師では唯一信頼出来る恩師ときた。


 ……ともあれ早起きしちゃったし、朝飯でも作るか。今日はお客さんもいる事だしな。

 とは言え、朝から手間暇かけるのは面倒なので横着メニューです。玉子焼きと豚汁ってとこで。


 あと少しで完成、といったところで扉が開いた。寝ぼけ眼に少し乱れた髪で、目をこすりながらの登場だ。

 いつもの高山先生からは想像もつかない程無防備である。乱れた衣服がそこはかとなくエロい。胸パッツパツなのもエロい。


「おはようございます、先生」

「おふぁよ……」


 ……面白いくらい寝ぼけてんなぁ。ムービー撮ったら怒られるかな?


「簡単っすけど朝飯用意しますんで、あとちょっと待ってもらっていいすか?」

「いいのぉ……?」


 物欲しそうに唇付近を指先でするりと触れて、とろんとした目でこちらをぼんやり見ながら小首を傾げる。なんかエロい。

 

「もちろんっすよ。口に合えば良いっすけど」

「だいじょぶ……昨日の夜もおいしくいただいたもの…」


 にへ、ととろけたように笑う。可愛い。可愛いのだが、何故かエロい。


「朝もいただいちゃっていいなんて……うれしい。ねぇ、まだぁ……?」

「あぁああおぉおおいエロテロリストぉ!目ぇ覚ませ!いや覚ましてくれぇ!」


 なんかもう無理なんです!お願い起きて先生!俺の、ひいてはお互いの為にぃっ!


 しかし意外な事になかなか先生は覚醒してくれず、出発は早起きした割にかなり慌ただしくなってしまった。

 家に寄る為に大慌てで早めに出た先生を見送りながら制服に着替える途中、ふと机の上にあるものを見つける。


「USBメモリ……仕事のデータじゃねこれ?」


 隙のない先生かと思っていたけど……割とあったな。料理と寝起きか。

 

 まぁとりあえず、俺も早めに出てこれを届けるか。じゃないと多分先生泣くぞこれ。

 そしてふと気付く。俺のスマホどこ行った?さっきまでテーブルの上に置いてたはずなのに。


 ……まぁ先生が間違えたんだろうな。抜け目なく抜けてるなぁ。


 恩師の愉快な一面に内心苦笑いしつつ、扉を開く。

 一学期の最終日という小さな節目を祝うかのように、空はどこまでも晴れ渡っていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「もうっ、昨日はどこに行ってたんですか?反省会しようって言ったじゃないですか」

「正気?俺が追われてたの見たよな?ねぇ誰のせい?よく臆面もなく言えたな?」


 登校して初っ端からマイペースに発言してくれたのは冬華。


「そーだそーだ。なのに秋斗だけ鬼ごっこして楽しみやがってよー」

「黙れ戦犯」


 次いで完全に分かっててからかってくるのは夏希。


「僕待ってたのに……ひどいよ大上くん」


 そして女子よりも女子な発言をする河合。


「私は良かったけどね。何でテスト終わってまで勉強しなくちゃいけないんだか」


 最後に半分独り言のようにぼやく根津。いやそれについては同感だけどさ。


 いやとりあえず、何で着席直後から包囲されてんの?

 確かに最近は夏希以外とも会話をするようになったけどさ。全員まとめてとか、わざわざ集まって、みたいな感じではなかった。


 おまけにこっちは一言も話していないのに、矢継ぎ早に言葉が振ってくるこの状況。見る者が見ればイジメみたいな絵面になってますがな。


「あの、ちょっとトイレに……」


 高山先生にUSBメモリ渡してスマホ返してもらわないと。特にUSBメモリは早めの方が良いだろうし。

 そう言うも、何故か誰1人行かせようとしてくれない。夏希に至っては腕を掴んで物理的に行かせてくれない。地味に関節極めるの辞めて?


 何これ?絵面だけじゃなくてガチのイジメ?

 あと春人、てめぇ笑ってんの隠せれてないからな?肩震えてんのバレてるからな?集まったクラスメイトが不思議そうにしてるぞ?


『大上秋斗くん、至急生徒指導へ』


 結局、校内放送で先生から呼び出された。

 それまで頑なに包囲していた冬華達はあっさりと離れていく。

 何がしたかったんだマジで……






「た、助かったわ!ありがとう大上くん」

「いえいえ。てか先生、俺のスマーー」

「ごめんなさい!すぐに取り掛からないと!またホームルームでね!」


 USBメモリを渡すや否や職員室へと早歩きで向かう先生。

 スマホ奪還ならず……まぁホームルームの時でいいか。かなり急いでたし、引き止めるのも悪いもんな。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ご、ごめんなさい……寝ぼけて持って行ってたわ」

「あ、気付いたんすね」

「本当に申し訳ないわ……」

「いや、そんな使わないんで気にしないでいいっすよ」


 それからホームルームの後、全生徒が終業式の為に体育館へ向かうタイミングで高山先生に呼び止められた。

 生徒達が周りに見えなくなって申し訳なさそうに手渡されたのは俺のスマホ。無事帰還である。


「はぁ……本当、どうしたら朝から頭が回るようになるのかしら…」


 頭を押さえてぼやく先生。珍しく弱音を俺のーー生徒の前で言うあたり、かなり悩んでるんだろう。


 まぁ結構酷かったもんなぁ。

 最終奥義の氷を首筋にピトッ作戦でやっと起動してくれるまでは、ぶっちゃけ育児に近い気分で対応していたくらいだ。

 ちなみにその時にあげた声もエロかった。ひゃぁんとか普通咄嗟に出るもんなの?


「毎朝あんな感じなんすか?」

「……まだ今日はマシな方よ。大上くんが意地悪してくれたおかげで起きたけれど、普段は学校に着くまで記憶が曖昧だもの」

「筋金入りっすね。てか意地悪とか言っちゃいます?俺の渾身の一手を」

「……だって、冷たかったんだもの。いじわる」

「…………」

「えっ?な、なんで膝から崩れるのかしら?!」


 気のせいでなければ、昨日から少し心を許してくれたんだと思う。

 恩師がそうしてくれるのは素直に嬉しい。嬉しいんだけど、たまに心臓に悪いんだよこの人。


「……この完璧教師天然小悪魔無自覚エロテロリスト料理下手寝ぼけ完璧教師め」

「呪文っ?!……ていうか完璧教師でサンドイッチして誤魔化してるけれどほとんど悪口じゃなかったかしら?!」

「じゃあ略して天然エロス教師っすね」

「ひ、ひどい結果になったわね……!というか残ったのがエロス?!何故?!」


 なんだか振り回されてる気がしてならない俺は八つ当たりがてら先生を揶揄っていた。

 楽しくなってきちゃって気付けなかったけど、2年生全員が移動が終わり、1年生が移動を開始するまでーー志岐高は上の学年から順次移動するシステムーー会話は続いてしまった。


「は、は、早く行いなさいっ!」


 変な目で一年生に見られて、真っ赤な顔の先生に全力疾走させられたのは言うまでもない。





 体育館に向かう途中、上の階を歩いていた団体から、1人の少女が列から外れて階段を下りてきた。


「アキくん、久しぶりだねっ!」

「んん?梅雨か、久しぶり。勝手に抜けていいのか?ちゃんと集団行動しろよ、怒られるぞ?」

「さすがアキくん、見事なブーメランだね!」

「うるっせ」


 小生意気な雰囲気と年相応の可愛らしさを持つ少女であり、学校一の人気者とまで言われるようになったらしい。

 春人の妹だけあって目立つし、あまり表立って話すと余計な被害がいきそうだから避けてたのに。


「いいから離れろよ。面倒なことになるぞ」

「えー、久しぶりに会えたのに冷たい!ひどいよっ!」

「いやこれ梅雨の為に言ってんすけど?」

「それは私が決めるもん!それにやっとアキくんと同じ高校に来れたのに、全然会えないし!たまにクラス行ってもいつもいないじゃん!」


 実はその中には通学してた日もあったが、あまり梅雨を俺の悪評に関わらせたくなかったから俺が避けてきたしな。

 とは言え、こいつも兄と一緒で望みは叶えるまで諦めないというか、まぁしつこい性質がある。

 これまでの長い経験則からして、さっさと俺が諦めるのが吉なのな分かってるんだけどな。てか何故俺の周りはこんなんばっかなのか。


「はぁ……まぁ梅雨が良いならいいか。てか会わないとか言うけど、ここ最近は毎日来てるぞ。それで会わないとか運が良いなお前」

「悪いんだよぅっ!アキくんと登校したり帰りに寄り道とかしたかったのにぃ〜」

「兄貴としろよ」

「え?アキくん正気?それはマジでない。 あ、ねぇねぇそれよりアキくん、今日一緒に帰ろうよっ!」

「春人が何をしたっていうんだ……。てか俺とはオススメしません」

「いいからっ!放課後の予定あるの?」

「……ないけど」

「じゃあ決定!逃げたら夏休みの間、毎日朝6時に電話するからね!」


 こ、こいつなんて恐ろしい事を……おまけに梅雨が有言実行なのは嫌と言うほど知ってるから余計に。俺は昼まで寝たいんだよ。


「わ、分かった。だから早まるな、落ち着け」

「えへへへっ、言質とったどぉ!」

「もうちょい女子高生らしい言葉の引き出しはないのか」


 嬉しげに笑う梅雨に、なんだかんだでついこちらも頬が緩む。

 可愛い妹分だし、こうも喜ばれるとやっぱり嬉しく思ってしまう。

 

「わぁーい!早く放課後にならないかなっ」


 そう言って抱きついてくる。昔はよくこうしていたけど、もう高校生なのにこれで良いのだろうか。


「離れろ、もう高校生だろ?無闇に人にベアハッグするんじゃありません」

「むぅ。鯖折りじゃーい!」

「やめろバカ」


 子供か。無邪気なのは可愛いが、少し心配になる。

 とは言え、春人にそれを話したら心配ないとの事。いわく、俺の前だけ気が緩むだけで他ではしっかりやってるとか。

 あれで実は兄バカだからな。ぶっちゃけ疑わしい。というか力強っ?!引き剥がせねぇ!?普通に痛いし!


「おま、何この馬鹿力?!女子の腕力じゃねぇだろ!」

「ふっふっふー!愛の力だよ!」

「単なるフィジカルだろ!この高性能兄妹が!」

 

 そんなこんなでやっと体育館の入り口まで辿り着くと、そこには生徒会の仕事なのか生徒会長――大上紅葉、俺の姉が居た。


「こら、梅雨。ちゃんと自分のクラスの列に戻りなさい」

「あ、ごめんね紅葉姉!」

「それにアキ?」

「待て。俺のは不可抗力だわ。高山先生と話をしてて出遅れたんだよ」

「知ってるわよ。何を教師とイチャついてるのよ、罰として1年間女性との接触禁止よ」

「イチャついてないし理不尽すぎる!てか何故知ってる?!」 


 我が姉ながらどういう情報網なの?情報の広さと早さだけなら春人より上だろ……てか盗撮か盗聴なんかでは?


「え、ええっ?!先生と?!アキくん、嘘だよねっ、アキくんは歳下好きだよねっ?!」

「梅雨、色んな意味で落ち着け!」


 あーもう、梅雨まで変なスイッチ入ったよ。あかんパターンだわ。


「梅雨、違うわよ。秋斗は姉萌えなのよ」

「くそ次はこっちか!姉さん、弟の風評被害を増やして楽しいか?!」

「姉萌えもダメだよアキくん!妹萌えにしてよっ!今すぐっ!ねっ、ねっ?!」

「体育館前で何言っちゃってんのこいつら?!」

「梅雨、相手の趣味嗜好は無理やり決めつけるもんじゃないわよ」

「よく真顔で言い切れるね?!もう嫌だこいつら!」

 

 無理だこれ俺じゃ止められねぇ!

 結局後から来ていた高山先生にまとめて叱られ、体育館に放り込まれました。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「やっと来たかー。秋斗お前、センセーとどんだけ話し込んでたんだよ?」

「いや、それだけじゃなくて途中で梅雨と姉さんに会ってな」


 体育館にはパイプ椅子が並べられている。

 かなり広い体育館だけあって、あまりギチギチに詰め込まれた感もない。まぁその分隠れて寝てたりすると目立つワケだが。


 自分のクラスの席あたりに行くと、どういう席の並び順かは知らないが夏希に指刺された席に座る。

 左右に夏希と冬華。見方によっては両手に花なんだろうけど、何故か連行される犯人の気分になるから不思議だ。


「あぁ……そりゃ遅くもなるか。その2人と秋斗が揃うとちょくちょくカオスになるしな」

「そこに俺の名前が含まれるのは納得できんけど」

「でもそうだろ?」

「……何故かそうなんだよな」


 あの2人だけ会話してると普通なんだよな。なのに、なぜかたまにこうなる。


「……秋斗は年上好きか年下好きなんですか?」

「え?」


 そこに割り込んできたのは冬華。

 まるで先程までの会話を聞いていたかのようなセリフに驚いてると、ジトッとした湿度高めの視線に切り替えられた。


「同い年好きですよね?」

「第三の選択肢が出てきた……」


 なんで収束するどころか複雑になってくの?というかこの話もう良くない?恋愛は俺には分不相応だし分からんっての。


「あー……冬華ぁ、秋斗は年上好きだったぞー」

「夏希?!」

「むぅ……でも過去形ですもんね。今は違いますよね?」

「どーだろーなぁ。多分高山先生とかストライクだと思うけどなー」

「……確かに先生と話す秋斗はなんだか嬉しそうにしてますね。秋斗ってエッチですね。ヘンタイ」

「冬華?!」


 夏希の理解度と冬華の睨みがやばい。いや別に年齢以前に恋愛自体が難しいし、対象年齢とか以前ですからね?


 そんな会話をしていると長い終業式は進みーーと言うよりはほぼ校長の話だけどーー後は生徒会長の言葉をもって終わるのを待つだけとなった。


 壇上に生徒会長である姉さんが立ち、礼をする。

 それだけで、何故か巻き起こる拍手。


「んん?これ拍手する所なのか?」

「普通はしませんね」

「紅葉さんへの感謝が溢れたんだろーね」

「姉さんは教祖にでもなったのか?」


 夏希の軽口を軽く聞き流す。いや夏希って結構姉さんの事慕ってるから完全に冗談じゃない、のか?え、どうしよう怖くて確認出来ない。


「でも本当に綺麗だしカッコいいですよね。正直、私も憧れます」

「だよなー紅葉さんマジでかっこいいよなー!」


 まさかの冬華が乗っかり、夏希がヒートアップ。

 憧れや尊敬する人の話を女子2人が和気藹々と話すのは別に良いし、なんなら微笑ましくもある。

 それが実の姉であって、かつ俺を挟んで会話してなければだが。


「なんの羞恥プレイですかこれ?」

「はぁ?ったく、弟の秋斗には紅葉さんのありがたみが分からないんだろーな」

「というか、改めて考えてもすごい姉弟ですね」

「そこに俺並べるのはおかしいだろ」


 優秀な姉だとは思っていたけど、こうして聞くと改めて感心する。

 けど、なんかこうも身内を褒められると、気恥ずかしいというかいたたまれなくなるというか。

 この気持ち、兄弟姉妹持ちの人なら分かってくれると信じてる。


 そうこうしていると、姉さんの話は早くも終盤を迎える。まぁ姉さんは長話は好きじゃないし、簡潔にまとめてたんだろう。


「――……以上で、生徒会長である私からの話は終わりです」


 ……んん?なんか妙な言い回しだな。姉さんらしくもない。


「そしてここからは、大上紅葉として話があるわ。申し訳ないけど少し時間をもらうわね」


 ざわざわと体育館に喧騒が湧いていく。

 それも仕方ないだろう。俺だってビックリしてるし、なんなら何言ってんのかって思う。

 教師も聞いてなかったのか、お互いに目を合わせて首を傾げてるのが見えた。


 そんな中で、両サイドの2人、夏希と冬華が随分と平然としてる事に気付く。

 まさかこいつら、知ってたのか?

 それを聞こうとするよりも早く。


「待て!その前に俺から話がある!」


屯田先生の言葉によって俺の言葉は遮られた。


「……………」


 ちらりと再び夏希と冬華を見れば、ぱちくりと目を丸くしていた。あ、この流れは想定外なんすね。なんか変に安心した。


 なんにせよ、なんか面倒な終業式になりそうだなぁ。


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