第6話 手を離しても、あなたのもとへ
竜の国の朝。
空は澄み渡り、金色の光が城の庭園をやわらかく包みこんでいた。
今日、リリアは初めて「アシュレインの腕の外」で試練を受ける日だった。
「今日は、我の手を離れて挑むのだ」
アシュレインは静かに告げながら、腕の中のリリアを見下ろす。
いつも抱きしめられていた温もりが消えてしまい
不安になるリリア
しかしアシュレインのその声音は優しく、どこか寂しげでもある。
リリアは彼の胸の鼓動を感じながら、小さく頷いた。
「……はい。でも、ちょっと、怖いです」
「恐れるな。おまえの中には、竜の加護が息づいている」
アシュレインはその額に唇を寄せ、光の魔紋を描く。
その瞬間、彼の腕がゆっくりと離れた。
温もりが消える。
代わりに、風と光と、少しの不安。
庭園の中央では、小さな竜たちが跳ね回っていた。
彼らはまだ言葉を持たない――だからこそ、魔力で意思を交わすことが今日の試練。
「魔力の親和性を確かめる。竜たちと、心で通じ合うのだ」
セリオンが説明する。
ユウは後ろでわくわくした表情を浮かべていた。
リリアは掌を胸の前に掲げ、息を整えた。
「……きっと、できる。アシュレイン様が見ていてくださるもの」
淡い青光がリリアの手から広がる。
最初の小竜が跳ねながら彼女に近づいた。
「……こんにちは」
リリアの魔力が光を通して伝わる。小竜の瞳がやわらかく光り、翼をぱたぱたと震わせる。
次に、輪のように跳ねる小竜たちがリリアを取り囲む。
その跳ねる軌跡の中を、リリアは魔力で道を探りながらくぐり抜ける。
一歩、また一歩。
転びそうになりながらも、集中の糸を切らさず前に進む。
――どこかで、アシュレインが息を飲んだ気配がした。
最後の竜の前で、リリアは大きく息を吸い込む。
魔力を解き放つと、青と金の光が庭園いっぱいに広がった。
小竜たちは嬉しそうに輪を作り、リリアの頭上で旋回を始める。
光が落ち着くころ、アシュレインはゆっくりと歩み寄った。
その金の瞳は、誇りと愛情に満ちていた。
「……さすが、我のリリア」
その言葉とともに、彼は迷いなくリリアを抱きしめた。
「頑張ったな。もう、恐れるものはない」
「アシュレイン様……!」
リリアの頬が赤く染まる。だが、もう震えてはいなかった。
ユウがぼそっと呟く。
「結局、また抱き上げてるじゃないですか……」
セリオンは溜息をつきながらも、どこか微笑ましげに口元を緩める。
カイは静かに頷き、セリナは目を細めて見守っていた。
リリアはアシュレインの胸に顔をうずめながら、小さく笑った。
――たとえ手を離れても、この人はずっと、わたしを導いてくれる。




