閑話12
再戦前の過去話です
●レメトゥス・ザグデ
あちこちの迷宮に、何度も挑戦しては怪我を負いながら逃げ帰る。そんな日々をレメトゥスは繰り返していた。なんでだ。俺は強い。99がレベル限界の世界に、なんでこんなに強いダンジョンがあるんだ。超高難易度ダンジョンから手を引こうかとも思ったが、最高レベルは獄級というダンジョンがあるという。高難易度はここのレベルのやつ等が徒党を組めば入れるレベルだとも聞く。レベル5000オーバーの自分が、此処のレベルの低い奴等と同じダンジョンに入るなんて屈辱だった。そんな時に噂を聞いた。
「バケモノ姫とカイブツ王子、獄級踏破しまくりだってよお」
「っかー…やっぱ人間じゃないって。獄級なんて人間の行く場所じゃねえよな」
多分、あの女と男の事だ。獄級だと?1人じゃなく2人だとはいえ、あれを踏破出来るだと?
レメトゥスは頭を掻き毟りながら机に額を打ち付けて突っ伏した。
その異様な姿に、噂をしていた冒険者が「おい、行こうぜ」と小声で会話してそそくさと後ろの席から消える。
獄級に1度出向いたことはある。何処もかしこもスタンピード状態で、ダンジョンに近づく前に死にそうになって慌てて逃げた覚えがある。あれをいくつも踏破!?あの二人は多分、レベル99ではないだろう。レベル99な訳がない。レベル99であって堪るものか!!一体いくつレベルがあるんだ?10000か?20000か?俺の元居た世界では9999がレベル限界だった。多分俺もそうだろう。だがそのレベルになっても獄級とやらは踏破出来る気がしない。
俺が最強でなければならないのに。俺が最強でなければ、最強のヤツの下僕になってしまう。それだけはもう耐えられない。
「がぁああああああ!!」
ムダに殺気を漏らして咆哮する。気付けば冒険者ギルド併設の酒場には、人の姿がなくなっていた。従業員も端の方へ固まって何やらひそひそ話をしている。醜態だ。チッと舌打ちしてエールを飲み干す。震える店員にエールの追加を頼む。――此処にも食指の動くような美人は居ない。憂さ晴らしはまたあの女でいいか。最近は只管悲痛な顔で震えながら暴行に耐えている。そういう姿は嫌いではない。レベルは未だ5120。ああ、何もかもが上手く行かない!こんな速度でレベルを上げても、あいつらに追いつける気がしない!
「なにやら御不快な様子、何があったか訊いてもよろしゅうございますか?」
怪しいローブの男が話しかけて来た。本来ならば殴って「失せろ」の一言で済ませていただろう。
だが、この時のレメトゥスは、袋小路に迷い込み、酔っても居た。
「……強くなりてェ」
「既に相当な腕を御持ちと見受けますが、それ以上に?」
「…あの女に勝てなきゃ意味がねェんだよ」
「――もしや、聖女の事で御座いましょうか?」
「知ってるのか、あの女を!?」
「ええ、ええ、マリエール・フォン・サリエルの事でありましょうな。レベルなどは存じ上げませんが、多少の強化をした人間では太刀打ちできませぬ。しかし、貴方様ほどの腕があるならば、強化する事であの女に届きましょうぞ」
「その強化とやらで俺がバケモノや悪魔に変わったりするんじゃないだろうな」
「まさかまさか!そのような一時凌ぎの強化など致しませぬとも。出来れば我が教会の幹部としてお迎えしたいと思っております」
「いきなり逢っただけの俺を幹部、ねェ…」
急に話が胡散臭くなった、とレメトゥスは眉を顰める。
「いえ、私達はずっと貴方様のような方を探しておりました。あの女に届きうる存在を。そうして今、巡り合ったのです。貴方こそ、我が協会の目的を果たして下さる御方だと!」
「ふゥん…続けろ」
「我が天秤教は、あの女の打倒を今一番の目標に掲げております。しかし、誰もあの女に敵うものが居ないのです。一度、自称勇者を名乗るものを送り出したのですが、自称は自称、とても聖女に勝てる人材ではありませなんだ。そこに見出したのが貴方です。本物の勇者が召喚され、我らが世界にお越しになられていると聞いて探しておりました。…間違い御座いませんでしょうか?」
「っははは、間違っちゃァいねェな。そうだ。俺が勇者だ。あの女より俺を強くしてくれるンならついて行ってやってもいい」
「ではどうぞ、こちらに…」
怪しい男はレメトゥスの飲食代を店員に渡し、ギルドの外へ出る。其処からは転移でアジトへ連れて行かれたものだから、場所は解らない。
男は見るからに禍々しい玉を取り出す。
「勝ちたいと願う相手の顔を良く思い浮かべながらこれを飲んで頂けますか」
「おい、本当にバケモノにならずに済むんだろうな!?」
「保障致しまする」
レメトゥスはその玉を見つめ、ぐっと歯を噛み締める。覚悟を決めたような顔で口を開く。
「聖女の顔を確りと思い浮かべて下さいませ」
「……」
何度も思い返した聖女の顔を確りと思い浮かべ、レメトゥスはその玉を飲んだ。
途端に、体中に力が漲り、龍をも素手で倒せると確信出来るチカラに溢れた。
「…あの女…ここまで強かったのか…」
ゆったり身を起こそうとすると、男は言う。
「5日ほど安静になさいませ。力が定着いたしませぬ」
「…解った」
「そしてこれを…」
男はごそごそと懐を探ると、一本の指に見えるものを差し出した。
「なんだこれは」
「そのチカラでも、もしまだ敵わないと思うようであればお食べ下さい。我が神の聖遺物で御座います」
「なら今食べればいいんじゃねェのか」
「いいえ、玉の力が安定する前に食べると、寿命と引き換えになってしまいまする。定着した後でも、少し人としては形が崩れてしまう事も御座います。緊急時にのみお使い下さい」
「人として形が崩れるだと?そんなナリで暮らして行けという心算か」
「もしそうなった場合も、我が教会で保護はさせて頂きますが、今までどおりとは行かないでしょう。なので、本当の緊急時にしか使用をお勧めできません」
「緊急時だな。…解った。…ああ、おい、此処を塒にしても構わねェよな?」
「ええ、お連れ様もどうぞ御利用下さって結構で御座います」
次に逢った時には半殺しにして犯してやる。従者みたいな男の目の前で。
それを考えただけで、レメトゥスの体に愉悦が走る。
「ふっ…くくくくく…」
5日後、自分はあの女を圧倒し、世界で一番強い者になるのだ。
●ある女生徒
アデライドさんを悪女と言ったのは誰だったのでしょう。いつの間にやら周知の事実となっており、二つ名は我侭姫になっていました。私も学園に行くまでは噂を聞いては同じクラスにならないよう、事あるごとに祈っておりました。ですが、祈り空しく、私はアデライドさんと同じクラスになってしまったのです。
見た目は本当に綺麗な方で、この方が!?と驚いたものです。ですが、何一つ我侭な事など仰いませんし、非常に良識に溢れた方だとお見受けします。汚水を掛けたり髪飾りを壊したりするようには見えませんし、王子と不仲だと聞いていたのに、むしろ王子がアデライドさんに恋慕しているのが良く解ります。
班分けで同じ班になって作業をしたときも、リーダーシップを取って皆が上手く出来る様にサポートもして下さいます。公爵家である事をひけらかすような事もなさいません。一体噂はなんだったのでしょうと首を傾げていると、モルンさん達被害に遭った方々が糾弾の場を設けました。内容を聞くと、とても公爵家の方に向かって謝罪を要求できるようなものではありません。小さい頃のことである事も相俟って、暗黙の了解で流される程度の悪戯です。
ですが、アデライドさんは膝をついて確り謝罪なさいました。自身に覚えのない事であるにも関わらず、です。殆どの令嬢がそれで満足なさっているにも関わらず、モルンさんは不満顔でまだ噛み付いています。同じことをしてやりたいって、この年齢で、公爵令嬢に向かってやって良い事ではありません。私は呆然とします。
それでも、毅然としたアデライドさんは、「それで貴女の気が済むなら」と言い出します。
有り得ません、本当にそんな事はあってはならない事です。
結局危険な罪ばかり起こしたモルンさんは退学となりましたが、その後もアデライドさんを誘拐して殺そうとした、という噂を耳にします。モルンさんは、糾弾の場で一体何を求めていたのでしょう。あの場では謝罪が一番の事のように思われますが、それ以上の何をあの場ですれば満足だったのでしょう。
私達の間ではもうモルンさんの事を口に出す者は居なくなりましたが、アデライドさんの噂は良い方向へと流れています。私はアデライドさんと話したり、笑顔を見るのが好きです。すぐにシュネー殿下が独り占めなさってしまうのですが。このままアデライドさんが平穏に暮らして行ければいいな、と私は思います。
個人的には、勇者は崩れた姿から元に戻してもらえて良かったね、と思ってるんですがw
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