62.真勇者
勇者って名乗るヤツに禄なのが居ませんね
早朝の訓練を終えて朝食を食べて軽くストレッチする。冒険者衣装で王宮まで転移。
グレモリーの水晶で見た感じでは、昼ごろ来るようなんだよな。影の位置的に。早めに行っておくほうがいいだろう。ほぼ顔パスで通され、玉座の間へ。
「敵は凡そ昼くらいに此処へやってくるようだ。無為な死人を出すのは意味がないと思われる。警備の兵士などに、結界内で勤務するよう伝えて欲しい」
そういやファムリタの姿がなかったな。邪魔だから宿屋に置き去りにしてるんだろうか。
これだけガチガチに固めた結界だ、一撃で破られるとは思わない。そして結界に接触があれば解るようにしてある。
あまり緊張するのも良くない。軽い雑談でもするか。
「兵士はどうだ?育ってるか?」
「おお。それなんじゃが、いざ始めてみると好評でな。もうレベル99に到達した者もちょこちょこ出始めてるぞ」
「そうか!良かった!あ、でも今回は兵士は出さないで欲しい。相手のレベルが5000だからな」
「解っておる。死なせる事になると解っておる事に割いて良い兵はおらんよ」
雑談しつつ、お茶を飲みながら、リシュのドーナツを食べる。王にも一口齧った上で渡してやると、嬉しそうに頬張った。
「なるほどシュネーがそちらに入り浸る訳だ…」
美味しさに頬を綻ばせながらも、苦笑する王。シュネーは少しばつが悪い顔でドーナツを頬張っている。
まあ、胃袋を掴まれるとどうしようもないよなあ、シュネー。
――その時、ガシャン!と結界の方から音がした。緊張しつつも、音源の方へ一行が駆けつける。
「アァ!?なんだこの結界、硬すぎネェか!?」
その後、駆けつけた私達を発見したらしい。眉を顰めて言い放った。
「なんだお前ら。全員口になんか咥えてッけどそりゃ武器かなんかか?」
しまった。ドーナツ食べかけだった。全員かよ。
「いや。茶菓子だ。皆で食ってた」
急いでもぐもぐと食べ終わる。
「ほォん。勇者の出迎えに全員が茶菓子咥えてやってくるたァ礼儀がなってないんじゃネェの?」
「…美味かったからなあ…」
「お前殺すぞ。ンな事聞いてねェんだよ。謝罪しろ」
「いや。王宮に攻撃仕掛けてきたお前が謝れよ。残りの茶菓子食いそびれただろ!」
多分、残りは王と側近あたりが食べつくすだろう。食い物の恨みは根深いんだぞ。
「俺は勇者だから赦されるんだよ」
「じゃー私も聖女だから赦されるな」
「はァ!?お前が聖女ォ!?」
聖女と聞くなりじろじろとこちらの顔や体を遠慮もなく観察する。気持ち悪いなこいつ。
「はァん。まあ及第点か。俺の女にしてやってもいいぞ」
「いらん。キモい。勝手に決めるな。鏡見てから言え」
「お前マジぶっ殺す」
結界ごしにガチガチに口喧嘩してたけど、このまま収まる訳にもいかなさそうだな。
結界から腕を出し、勇者の胸倉を掴んで持ち上げる。
「こっちの台詞なんだよ、このバカが」
勇者って名乗るヤツは皆こんなバカしか居ないのか?
そのまま背負って投げる。受身の取り方も知らないのか、地面に叩きつけられる勇者。
「ぐはぁっ!」
自分が投げられた事に気付かないのか納得いかないのか、呆然とこちらを見る。
「レベル99までなんだろ、この世界はよォ…」
カチリと刀を抜いて勇者に迫る。勇者は慌てて立って剣を抜いた。
瞬歩から胴を薙ぐ。殺してもいい気もするが、今のとこトルクスで誰も殺してないように見えるから、半殺しで止めよう。
「ガァアッ!」
纏っていた鎧はチーズのように柔らかく、勇者の腹を半分程斬ってしまった。やべ。死ぬかなこれ。
足元にヒールポーションを置いてやる。
「去れ。二度と来るな。次は殺す」
「お前ッ、お前なんで…俺が最強の筈だ!!!」
毒の確認もせずにヒールポーションを呷って勇者は喚いた。良かった。死にはしないだろう。
「はぁ?お前が最強?寝言は寝て言えよ。この底辺ドカスが」
「うがあああああああ!!!認めない!!俺が底辺!?じゃあそこらを歩いてる奴等は何なんだ!?」
「普通の人だろ。お前は人間性が底辺」
「はん、ンなこた解ってンだよ。レベルの話じゃネェのかよ」
「レベルがいくつになろうが、人間性が底辺のヤツは救われない。で、此処で死ぬか?国から出て行くか?」
「ぐっ…今は…今は出て行ってやる…。次に来る時は皆殺しだ。覚悟しとけよ!」
まだ治りきっていない腹を押さえ、ヨロヨロと飛んで行く。
多分レベル上げてもっかい来る気なんだろうなー。どんなに頑張っても多分私と黒曜に追いつかないと思うけどな。差が10倍くらいあるからな。くるんと振り返って結界内の仲間に謝る。
「ごめん、1人でなんとかなっちゃった」
そして茶菓子はやっぱりもう残ってなかった。勇者め。
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勇者は部屋に戻ってくるなり回復のポーションを飲む。そしてファムリタを寝台の上に投げ飛ばした。
「いっきゃぁああああ!!」
宿屋に一旦引いた勇者は、ファムリタに怒りをぶつけていた。
「聖女があんな強いってなんで教えなかった…?俺を殺して欲しかったのか?えェ?」
躊躇いもせずに女の顔を殴って脅す。欠けた歯が寝台に吐き出される。
「ゲボッ、んぐううううう!」
違う、とファムリタは必死に首を横に振る。まさかこの勇者よりマリーの方が強いだなんて思いも寄らなかった。
「お前に頼まれてたのとは別だ。俺があいつを赦せないから殺す。殺してやる」
ひゅうひゅうと顔を腫らしながら呼吸をするファムリタは小さく震えている。
「明日ッからダンジョンが多いっていうソルデに行く。お前は此処で待ってろ。部屋代は置いていく」
ぎし、と寝台に乗り上げた勇者は手馴れた風にファムリタの衣服を脱がせてベッド下に落す。
「気が向いたら抱きに戻ってきてやるから部屋に居ろよォ?」
こくこくとファムリタは頷く。
その後は嬌声とベッドの軋む音が部屋を支配した。
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朝、勇者の居ない事にファムリタは気付く。もうソルデへ向かったのだろう。食費と宿代がテーブルに乗っている。
「マリーに敵わないなら、せめてアンタが殺されてくれれば良かったのに…!」
まだ腫れている頬を水に塗らした布で冷やす。
勇者がいつ戻ってくるか解らない。解らない限り、部屋から外へはなかなか出られない。食料品の買出しくらいはさせてくれるだろうか。
「なんであたしばっかりこんな目に…全部マリーの所為だ!マリーが悪い!!」
もう、根拠なんてなくても、ファムリタが憎んで自分を保つ為には、マリーの所為にするしかない。
「ぅああああああああ!!!」
ベッドに伏せ、号泣する。ファムリタには、もう何をどうすれば事態が好転するのか解らなかった。
約束されたリターンマッチ。勇者はどこまで強くなれるのか
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