閉店作業
「何か掴んだみたいですね」
アランとトリスタンが去って行った店内で閉店作業を進めながらソラノはバッシとレオへと話しかけた。
「美味しいものが出来上がるといいなあ」
「あの調子なら大丈夫だろ」
ぬっと現れたのはバッシだ。
「春祭りの出店が楽しみだな」
「バッシさん、今年は誰と行くんですか?」
「勿論クララさんに決まっている」
クララは先日、バッシと結婚を誓い合ったばかりの恋人である。これはこれで一悶着あったのだが、無事丸く収まって何よりだ。
「ソラノは? デルイの兄ちゃんと行くのか」
「今年はアーニャと約束してる」
「何でだ? 喧嘩……はしてないよな。毎日飯買いに来てるし」
バッシとの会話に口を挟んできたレオは、不思議そうな顔をしていた。
「最近、忙しいみたいで……昨日お弁当を買いに来た時は、『これで二十四日連続勤務』って言ってた」
あの時のデルイは申し訳なさそうな顔で「ごめん、今年は一緒に行けそうにない」と言っていたが、ソラノの事など気にしなくていいから一刻も早く休んで欲しいと思う。昼夜を問わず制服で弁当を買いに来る彼は、おそらく家にすら帰っていない。
そんなに忙殺されるような職場だったっけ? とソラノは疑問に思ったが、「ちょっと厄介ごとに巻き込まれてる」と彼は言葉少なに言っていた。事件だろうか。
何にせよ、早く解決するといいなとソラノは思い、「私のことは気にしないでください!」と笑顔で労った。
ソラノに出来る事など弁当を手渡しする位で、職務上守秘義務があるだろうから手伝ってあげる事もできないし話を聞くことすらままならない。
倒れる前になんとかなりますように。
そんな祈りにも似た願いを込めて、ソラノはデルイを見送っている。
レオは別にデルイに思い入れも何も無いので、呑気に「あの人も大変そうだなー」などと言っていた。
ソラノは先日店を訪れたシスティーナにも声をかけたのだが、「誰があなたなんかと! というかわたくしは、お城で舞踏会に招待されているから、そんな庶民が行くような場所には行きませんわよ!」と言われてしまった。
お城で舞踏会。とてもお嬢様っぽい発言だ。
「舞踏会楽しんでください!」と言えば、「当然よ!」と返された。
きっとドレスを着て、煌びやかな場所で心ゆくまでダンスなどに興じるのだろう。
「羨ましい? あなたなんかじゃ背伸びしたって行けない場所なのよ」と言われたが、「いや、そういうのは良いかな……」と答えたところ、「羨ましがりなさいよ!」と言われてしまった。
お姫様願望がゼロのソラノには、城の舞踏会もドレスも宝石も興味が持てないので、羨ましがるのは難しかった。
「春祭り、もうすぐですね」
「店の客足も絶えないぞ。もう一踏ん張りだ」
「そうですね! 新作の和食材の料理も好評ですし!」
「こんなに注文はいると思っていなかったから、俺はびっくりだ」
「えーっ、でもレオ君も食べたら美味しいと思ったでしょう」
「思ったけど」
でしょうそうでしょうとソラノは胸を張る。
料理というのは組み合わせで無限の広がりを見せていく。
だからきっと、あのアランとトリスタンの兄弟も、春祭りまでに驚くようなものを作り上げてくるだろう。
フレーバー・クロワッサンに合うのは何も……抹茶と小豆だけではない。
コミカライズ最新話更新されました。
グロウルさんがリニューアルされて、今回から仕様が変わってます。
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【天空の異世界ビストロ店コミカライズページ】
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