act.85 お悩みモニカちゃん⑨
「妾からもモニカに聞きたいことがあるのじゃ」
「私に答える事が出来るかわからないけど……」
こちらの質問に気持ちよく答えてもらったのだから、出来うる限りは答えるつもりだ。しかし、マキナやこれからの旅のことはイグナールと相談してみないことには難しい。イグナールの力に関しても例がないことであるが、マキナのことはもっとわからない。
「ずばり……イグナールとはどこまでいっておるんじゃ?」
「え?」
全く考えてもいなかったことで頭の中が混乱する。私達に関する多種多様な質問を想定して言えることと、言えない事を分別し、答えを考えていた頭に、斜め上からアクアボールを叩きつけられた気分だ。
「え、あ、えっと! べ、別になんもないよ! 私達そ、そんな関係じゃないし!」
今の所は……である。
「なるほどのう……」
モニカの動揺を見て得心がいったとばかりに腕組みをし、頷くヴィクトリア。
「イグナールが鈍感なばかりかと思っておったが、こちらにも問題があるようじゃな」
彼女の言うイグナールが鈍感なことには激しく同意するが、こちら――モニカにも問題があると言うのは聞き捨てならない。
「ど、どういう事なのヴィクトリア⁉ 私の問題って何なの?」
ヴィクトリアの言動に少しムッとするモニカ。恐らくイグナールを思うモニカの気持ちには気がついている。そして、その気持ちが彼に伝わらないのは単にイグナールが鈍いだけではないと言うのだ。
まったく、これまでどれだけの努力をしてきたと思っているのだろう。私だって何もしなかったわけではないのだ。今だってイグナールの言葉の端々から、自分の事をただの幼馴染や旅の仲間としか認識していないと分かっている。
その状況を打破するために、こうしてヴィクトリアから女の魅力を学ぼうと頑張っているのに……
「よいか、モニカ? 妾の見立てでは、イグナールは今お主を女として意識し始めておる」
「そんな……まさか……あれだけ大切な仲間とか友人だって言ってるのに?」
「それはお主に向かって言っておるのではない。自分自身に言い聞かせておるのじゃ。じゃが、悲しいかな、奴はモニカの気持ちには気が付いておらん。じゃからイグナールの心境としては、女として意識するのは、大切な仲間に失礼じゃと考えておる」
驚きで声が出ないモニカ。それにしても彼女――ヴィクトリアはこの短い期間でどうしてそれだけのことを看破して見せたのだろうか。
「ど、どうしてそんなことがわかるの?」
その疑問が半場反射のように言葉となって口から漏れる。
「周りは大人ばかりの環境で育ったからのう。相手を観察して見抜く力が余計に育ってしもうただけじゃ。百発百中とまでは行かんが……まぁ、言い換えれば疑り深いとも言えるのう」




