act.84 お悩みモニカちゃん⑧
水弾の中で体をさすり、森の中で普段では味わえない入浴を享受する。立ったままの入浴なのでいつもよりは水に体を委ねることは出来ないが、それでも気持ちがいいことには変わりはない。
しかし、入浴に浸って本来の目的を忘れてはいけない。そもそも入浴の提案が先で、ヴィクトリアの魅力を探るのが後付けであるのだが、優先度と言うものはいつも変化し続けるのだ。
「ねぇ、ヴィクトリアは故郷でどんな事をしていたの?」
彼女の魅力を探る第一の方法。ヴィクトリアの普段の生活からヒントを探す。直接的な質問を控え、単なる世間話として自然に聞き出す。我ながらいい方法だとモニカは思う。
「ふむ、季節にもよるが……ゴーレムを使っての農耕の仕事じゃな」
「貴族なのに?」
ヴィクトリアの家系は貴族である。モニカの家も貴族ではあるが、彼女とは少しばかり事情が異なる。モニカのイメージでは家が治める領地の管理等はするものの直接的な労働とは無縁だと思っていた。そう言った労働は領民、つまるところ、農民の仕事だろうと考えていたのだ。
「他の領地なら、領主がそう言った仕事を積極的にやるとは聞かんのう。しかし、昼に話した通り、妾のクレヴァリー家が治める領地では王国の食料の大部分を生産しておる。人がいくらおっても足らんのじゃ。それに、妾の家系は代々土属性魔法使いが多くてのう。労働力としてゴーレムを使役するのは当たり前になっておる。妾自身も幼少の頃からよく手伝っておった」
幼い頃からゴーレムを作り、使役していた。ヴィクトリアの魔法が洗練されているように思うのは、普段の仕事から来ているのだろう。
「何か趣味はないの? お休みとかは?」
「趣味は……強いて言うなら狩りじゃのう。父上が存命の時はよく、森へと狩りに行ったものじゃ。獲物を追って森の中を駆けるのはとても気持ちがいいぞ」
狩りか……失礼かもしれないが、貴族のお嬢様と言うよりも狩人の方が彼女のイメージにぴったりとハマるように思う。それに、弛みのない引き締まった彼女の体がどうやって出来上がったのかが分かった。
モニカも旅の中で、絶えず歩き、戦闘も経験しているが、基本的には防御と回復が主な役割だ。護身術程度の槍の扱いも身につけているが、イグナールやディルクのような近接職と比べるとお粗末もいいところである。
今度イグナールの横で槍の練習をしようかな……




