act.78 お悩みモニカちゃん②
明るく笑うヴィクトリアの表情を見つめるモニカ。正直、モニカ自身も同年代の子供と会話をする経験は乏しい。イグナール、勇者ディルク、モニカの出身であるケーニヒ王国、王都カインでは魔法学が盛んであり、平民、貴族分け隔てなく魔法を学べる学校が存在する。
これは平等を目指すケーニヒ王国の意向である。魔法とは便利で人々の暮らしに欠かせないものであると同時に、危険な代物だ。それが悪事に利用されれば、大きな被害となるのは明白だ。そんな魔法の危険性や正しい使い方を学ぶ場が必要となってくる。
素晴らしい考えの元作り出された機関だと称賛され、周辺各国もケーニヒ王国の真似をして導入している。しかし、その実この学校は別の教育を推進する機関でもある。
それは優れた血統の魔法使い、貴族たちの力を平民達に見せびらかすためのものだ。国をより、盤石にするために平民の反逆心を子供の頃から摘み取る狙いがある。そして、平民の中でも秀でた魔法使いは積極的に貴族の称号を与え、国に仕えるように仕立て上げる。
表向きは平等を謳う学びの場であるが、真の狙いは国にとってのあらゆる反逆の芽を摘み取る機関なのだ。
そんな教育機関で学べることなど本当に基礎的なものしかなく、モニカの両親は彼女を学校に行かせることは無駄だと考えていた。位の低い貴族にとってはそのコネクションを広める社交場の意味も兼ねるが、名門であるハイデンライヒ家にそんなものは必要ない。
故にモーニカ・フォン・ハイデンライヒは学校ではなく、家の中で両親から英才教育を受けることとなる。
「名門であるハイデンライヒ家に泥を塗ることは許さん」
モニカが何か失敗したり、飲み込みが遅いときに必ずでる両親の口癖である。一人娘であるモニカは彼女の意思とは関係なく、将来の名門ハイデンライヒ家の当主として育てられた。
勉強、訓練、その目標のために費やされる毎日。両親と言う名の濁流に無理矢理動かされる水車の如く、モニカは考える事をやめて廻り続けた。
そんな彼女を変えたのはイグナール・フォン・バッハシュタインの存在だった。
バッハシュタイン家は元々平民であったが、現当主であるアルフレートが魔法学校で目覚ましい才能を発揮したため、貴族の称号を与えられた。彼は後の伴侶となるツェツィーリアと魔界へと出向くことになる。魔王討伐とまでは行かなかったが、そこで大きな戦果を挙げ、無事に帰還した英雄となった。




