act.77 お悩みモニカちゃん①
ヴィクトリアの作ってくれた土塊小屋の内装は二人分のベッド―勿論土製――が設置してあり、意外としっかりとしていた。出入り口に扉も、壁面にぽっかり空いた穴に窓もない。
しかし、屋根と外と隔てる壁があるだけで、人間はこんなにも安らぎを覚えるものなのかと感心する。いつもの四方八方どこからも見られるような野営と比べると、天と地の差である。
それに今日はヴィクトリアのおかげで久々に新鮮な魚とお肉にありつけることが出来た。なんとも贅沢な野営だろうか。これで広く、綺麗な湖なんかで水浴びが出来れば言う事はないのだが、それはさすがに我儘と言うものだろう。
せめて、何か大きな囲いでもあれば、自らの水魔法で生み出した水で水浴びが出来るのだが――さすがに四方を木々に囲まれ、どこからナニに覗かれるやもしれない空間でゆっくり身体を洗うのには抵抗がある。危険度的にも乙女心的にもだ。
うん? 囲い?
「ねぇねぇヴィクトリア!」
彼女は青いドレスを脱ぎ、すでに下着姿になっていた。窓から入る月明りが妖艶にヴィクトリアを照らしだす。細身ではあるが、見ているだけで伝わってくる柔らかさがあり、最大限の魅力を残し、無駄を省いたような……勿論、出るところは出ているのだが。
以前の仲間、デボラも魅力溢れる体つきではあったが、ヴィクトリアはまた方向性が違うように思える。
その柔らかそうな肉からは野性的な動物のたくましさを感じる。森や山を駆ける鹿や野を駆ける馬のようである。過剰に鍛えられているわけではなく、あくまで自然。彼女と言う人間を表す結晶体。ヴィクトリアと言う肉体美に目を奪われるモニカ。
「なんじゃモーニカ、ぼうっとして。妾に何か用があったのではないのか?」
彼女の声にビクッと体を震わせるモニカ。純粋に美しいものに目を奪われただけなのだが、さすがのヴィクトリアも同性にジロジロと見られるは恥ずかしいのかもしれない。訝しげな表情でモニカを覗いてくる。
「え、いや……なんか逞しくてかっこいいなって……」
最低だ。いくらそんな言葉が連想されたとはいえ、馬鹿正直に言ってしまうとは……体をジロジロと見られた挙句、逞しいだの、かっこいいだの。私が彼女の側なら怒りを露わに叫ぶことだろう。しかし彼女は――
「はははは!」
それを笑い飛ばした。
「ご、ごめんなさい」
「別に構わんよ。素直な感想なんじゃろう?」
「う、うん。かっこよくて、逞しくて、すごく綺麗だと思う……私もそうなりたい」
ヴィクトリアはベッドの上で胡坐をかき、目を輝かせてモニカを見つめる。
「それは嬉しいのう。昼に話した通り、妾と近い年頃の子はおらんかったからのう。こんな話をするのも新鮮で楽しいもんじゃ」




