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act.76 おもちゃな妹分


「奴ならそこら辺の獣や魔物には負けんよ。それが二足歩行の魔物でものう」


 二足歩行の魔物……ヴィクトリアの言っているのは恐らく野盗などの悪意ある人間のことを言っているのだろう。彼女の作るゴーレムの強さは昼間の出来事をもって頭に焼き付いている。


 対峙したときは威圧感に飲まれそうになったが、味方として守護して貰えるならば単純に心強いものだ。


「これならばイグナールもゆっくり休むことが出来ようぞ」

「何もかも世話になって……ありがとうヴィクトリア」

「礼などいらん。それよりも夜の相手でもせい。ウサギの肉を食うとどうも身体が火照ってのう」


 ヴィクトリアは人差し指を口に当て、品定めでもするように舐めるような目線をイグナールに送ってくる。たき火の灯りで彼女の唇が艶めかしく照らし出される。


「ダメダメダメダメ‼ そ、そういうの良くないと思います!」


 ヴィクトリアの目線を遮るように彼女とイグナールの間に入ってくるモニカ。両手をブンブンと振り上げて邪魔をする。


「ハハハ! 冗談じゃ。やはりモニカをからかうのは面白いのう」

「も、もう!」


 ヴィクトリアに向けて膨れっ面を見せるモニカ。傍から見れば仲の良い姉妹のように見える。まぁモニカがいいように遊ばれているようにも見えるが……


「すまん、すまん。詫びとして妾が寝床を提供しようぞ」


 彼女はまたもやしゃがみ込み、地面に手を当てると触れた土がスライムの様に蠢き始め、膨れ上がる。様子を見ているとその土は小屋へと姿を変えた。出入り口には扉もなく、窓が嵌っているわけでもない。しかし、外観は立派な小屋である。地べたで無造作に眠るよりもよっぽど快適と言えるだろう。


「こんなものまで作ることが出来るのか……」


 圧巻の一言である。土属性魔法使いが身近にいなかったため、確かに知識は乏しい。しかし、それを差し引いても彼女の力を驚くべきものだろう。今だヴィクトリアと言う人物としても、魔法使いとしても底が見えない。


「まぁ、狭苦しいのは許しておくれ。それでは寝床に着くとするかのうモニカ」


 彼女とモニカは土塊の小屋の中に消えた。と思ったらヴィクトリアがひょっこりと顏だけをだしてこちらを見る。


「夜這いはいつでも歓迎じゃぞ?」


 悪戯っぽい表情を浮かべてヴィクトリアはすぐさま消えた。小屋の中からモニカの叫び声が聞こえる。これもイグナールと言うよりも、モニカをからかっている行動の一つだろう。


「はぁ……それじゃあ火の番を頼んだマキナ」

「畏まりました」


 彫像のように立ち、三人の食事を俯瞰していたマキナがたき火の前に座る。イグナールは手ごろな木にもたれ掛かり、目を閉じた。


 ヴィクトリアが生み出したゴーレム、古代の戦闘人形マキナ。下手な宿屋よりも安全な野営である。イグナールは安心して深い眠りへと意識を投じる。



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