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act.73 野営⑦


 茜色に染まった小川の水面を眺める。垂らした釣り糸に変化が無いかを観察し続ける。釣り糸を垂らしてからは両者共に黙ったままだ。小川のせせらぎ、虫と鳥の声。森の声だけが静かに聞こえる。そんな静寂を破ったのは――


「マキナ……と言ったかのう」


 ヴィクトリアだった。


「深い事情があるならば、別に聞き流してもらっても構わん。(わらわ)も伏せておることがあるからのう」


 神妙な面持ちで話しを続けるヴィクトリア。どうやら彼女の興味はマキナにあるらしい。


「あれは誰が作ったゴーレムじゃ? お主か? それともモニカか?」

「なっ⁉」


 彼女にマキナが人ならざる者だと看破されていた。その事実に目を見開き、驚きの表情を浮かべる事しか出来ないイグナール。見抜かれたことにもだが、ヴィクトリアと言う第三者の一言で、彼女が本当に自ら言っていた通り戦闘人形であることが確定してしまったからだ。


 頭ではわかっていても、あまりにも人間と変わらないマキナをどうしてもそう思えなかった。


「最初は小さな違和感じゃった。しかし、一日側そばで観察してようやくわかったのじゃ。あれが何者かに造られた存在じゃとな。まぁゴーレムと言うのはあてずっぽうじゃ。土塊だけであんな代物はどう頑張っても作れんよ。じゃが……当たらずといえども遠からずじゃろ?」


 ヴィクトリアに隠すことはない。行動を共にしているイグナールやモニカにもマキナの存在は謎が多いのだ。イグナールは彼女に全てを話した。マキナの事は勿論、イグナールが雷に打たれ紫電を纏った事や、その力を知るためにルイーネに向かっていることを……


「にわかには信じがたいことじゃが……マキナと言う存在がすでに妾の常識を超えた存在じゃからのう。それを突き付けられたのなら信じるしかないと言うものじゃ。しかし、他属性の魔力を糧に動くゴーレムとはのう」

「さっきゴーレムっていうのはあてずっぽうだと言ったが、やはりゴーレムなのか?」


 ヴィクトリアのゴーレム発言は、ただかまをかけただけに過ぎなかったと自分で言っていたのだが、イグナールの話を聞いて考えを改めたのだろうか。


「いや、まだわからんよ。妾の知るゴーレムとは大きく異なるからのう。じゃが、根底にあるのは同じじゃと思うぞ。魔石を核にし、簡単な命令を繰り返す自立型のゴーレムは、妾も幾度となく作成したことがある。マキナの核が魔石とは限らんが、これこそ当たらずとも遠からずじゃろう」


 命令を順守する自立型のゴーレム。確かにマキナの根底にはそう言った特性があると思う。だからと言ってモノ言わぬゴーレムとマキナを同じに見るにはやはりまだ抵抗がある。


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