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act.71 野営⑤


 目の前には森と森を分断するように小川が流れていた。ヴィクトリアはこれを探していたのだろう。イグナールには水音などまったく聞こえなかったが……。


「すごいな……どうやって見つけたんだ?」


 先程彼女は、音を拾っていた。その時イグナールも注意して聞いてみたが何も聞こえなかった。常人にはない異常な聴力を使って小川を見つけたと言われても納得できる。


「別にすごい能力を発揮して見つけたわけではないぞ?」


 イグナールの考えていることを見透かされたようで少し怖くなる。


「ほれ、あそこに生えとる植物、あれは十分な水分が無いと育たんのじゃ」


 彼女が指さす方向にはどこにでも生えていそうな雑草が鬱蒼と茂っている。イグナ―ルでは他の植物と一切の見分けが付かないだろう。


「その植物を好んで食す虫の声、その虫を食す鳥の声……(わらわ)は森の声を聞いて案内してもろうただけじゃ」


 事も無げに言うヴィクトリアだが、彼女の言う森の声を聞くにはどれだけの知識と経験が必要になるか、イグナールにはわからない。


 おもむろに地面にしゃがむヴィクトリア。またもや動物の巣穴でも発見したのだろうか。彼女の目線の先を見ると土がポコポコ湧きあがっている。まるで水の中から空気が逃げ出していく光景に似ている。何かしらの魔法を行使したのだろう。


 するとその中から長細く、茶色をした紐のようなものがうにょうにょと湧き出てきた。ミミズだ。モニカなら卒倒していたかもしれない。イグナールは子供の頃、土いじりなどをして幾度も遭遇したことはある。


 一匹ならまだしも、数匹がまとまっているところは見るに堪えない。ヴィクトリアはミミズ同士が集まり、球状になった物体をむんずと掴み上げる。


「ほれ、エサを捕まえたぞ。仕掛けを作る故、持っておいてくれ。逃がすでないぞ」


 それをイグナールの手元まで持ってくる。彼の心は嫌だと叫びつつ、半分反射のように両手を皿にして受け取る。


「ヒィ‼」


 瞬間、手のひらの皮膚をウゾウゾと這いずり回るミミズたち。視覚の気持ち悪さを遮断するためと、逃がさぬように手を閉じる。彼らはイグナールの手を逃れようと狭い手の中を所狭しと探索する。


 指と指の隙間に頭をねじ込もうとしている感触がこそばゆくも非常に不快である。ガッチリと隙間を埋めているにもかかわらず必死なミミズたちの脱出は力強い。


「頼むヴィクトリア……早くしてくれ」

「なんじゃ、情けないのう。もう少し待っとくれ」


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