act.67 野営①
農作物を荒らすゴブリンの被害。彼女は自領で国一つを賄う程の食料を作っていたと語っていた。これが本当であるのならば、それは個人の問題ではなく、王国を揺るがすような大問題である。
だからこそ、ゴブリン退治に国が討伐隊を編成したのだろう。それでも解決できていないのが現状ではあるのだが……しかし、繁殖力が高いゴブリンと言ってもそれだけのことをしても全滅に至っていないのは不思議なことだ。
「それでルイーネの討伐ギルドに依頼を出しにいくの?」
んーと唸るヴィクトリア。イグナールが振り返ると、モニカの質問にヴィクトリアは渋面を浮かべている。そんな表情でも綺麗だと思える程、魅力的な彼女は日の光で輝く自身の髪をいじりながら、何やら思案している。
国の存亡を賭けたゴブリン退治を経ても駆逐出来ないのに、わざわざルイーネまで依頼を出しに来るであろうか。
「ふむ、そこは国家の機密と言うやつじゃ。先程会ったばかりのお主らに軽々しく話せることではない」
彼女が隠していることは気になるが、言いたくないのならば仕方がない。イグナールも困っているとはいえ、先程会ったばかりの彼女に肩入れする理由もない。
「そっか……私とイグナールも討伐ギルドなんだ。まだ駆け出しのBランクだけど、機会があったらよろしくね」
「ほう、そうなのか。それでは、もしやすると世話になるやもしれんのう」
◇◇◇
しばらくして日が傾き始めたので、今日の移動はここまでにする。モニカとマキナはてきぱきと野営の準備に取り掛かる。二年間の旅でモニカの野営の準備も手慣れたものだ。マキナに細かく指示を与えながら、出来る限りの快適空間を作り出している。
本人は慣れたくないといつも愚痴っているが……
イグナールの当番は食料の調達である。バージスを出る際に日持ちする食料は十分に買ってあるが、どんな不足の事態に陥るかはわからない。節約できるのであればそれに越したことはない。それに、硬いパンとしょっぱい干し肉にはさすがに飽き飽きしていた。
ここらで新鮮な肉か魚を食べたいところだ。だが、そう言った方面のスキルを持ち合わせていたのは旅の先輩であるディルクである。いくつかやり方やコツを教えてもらったことがあるものの、向かって来る敵ならいざ知らず、逃げて行く小動物や気まぐれな魚にはいつも手こずる。
影が伸びてきた森の中の住人である彼らを追いかけるのは、その日の締めくくりにはきつ過ぎる労働だ。それで成果を得られなければ、落胆するモニカの顔をみることになる。彼女は責めたりはしないのだが、それだけ期待を寄せているのであれば叶えてやりたいと思うのが漢心と言うものであろう。




