act.66 農作被害
「それで、そこの従者はどうなんじゃ? この中では一番年長に見えるがの」
「いえ、私はまだ稼働して半年も――」
「ま、マキナは確か十九だったよな? そうだよな?」
別に隠す必要はないのかもしれないが、話がややこしくなるのは確実だ。それにヴィクトリアにマキナのことをうまく説明出来る自信がない。で、あるのならば彼女がマキナに興味を持つ前に話を切り替えてしまう必要がありそうだ。
「それにしても、ヴィクトリアはなぜルイーネを目指しているの?」
そう思ったのはイグナールだけではなかったらしく、モニカがヴィクトリアに質問を投げかける。内心よくやったと思いながら後ろの会話に聞き耳を立てる。
「妾の家、クレヴァリー家は北の国、シュネー王国より領地を預かる領主の家系なのじゃ。土属性魔法使いを集め、ゴーレムを使って農耕をしておった。クレヴァリー領は国内の食料事情を一挙に引き受けていたと言ってもよい」
北国と言うのは痩せた土地が多く、大規模な農耕は難しいと聞く。それでも一つの国を支える食料を生産しているとは大したものだと思う。しかし、後ろを歩くヴィクトリアの声はだんだんと低くなっていく。
「しかし、ここ十年くらいの事じゃ。近くの森でゴブリンが大量発生してのう」
ゴブリンは人間に似た魔物だ。しかし、大人になっても人の子供と同じくらいの大きさにしかならず、一匹の力も子供と大差ない。しかし、武器を作ったり、狡猾な罠を仕掛けたりするなど厄介な魔物と言える。
「奴ら領内の畑を荒らしおる……しかし、追い払おうにも小さく、すばしっこい奴らは、妾のゴーレム以外では追うこともままならんのじゃ。王国に討伐隊を編成して貰い、根絶やしにしてやったと思っても、またどこかしらから湧いてきおる」
ゴブリンの繁殖力は高く、一匹見たら三十匹はいると思えなどと言う言葉を聞いたことがある。そして、集団となった奴らは人間の畑を荒らし、民家に忍び込んで盗みを働いたりもする。適応力が高く、世界各地に生息し農家の悩みの種だ。
討伐ギルドでも多くのゴブリン討伐依頼が張り出されている。一匹一匹が弱く、戦いの心得があれば誰でも討伐出来る。そのためかギルド登録してすぐの駆け出し者や小銭稼ぎ程度の依頼という認識がある。
討伐ギルドに登録した者の目指す所は、やはり人間の世界を脅かす魔王の討伐だ。確かに人への間接的な被害としてはゴブリンを捨ておくことは出来ないが、強くなってランクが上がる程ゴブリンの依頼など受けなくなるのが現状だ。




