act.65 苛烈さの裏にある優しさ
ヴィクトリアを一時的にパーティに迎え入れ、ルイーネを目指す一行。イグナールを先頭にして林道を無言で歩いて行く。
勇者ディルクに誘われ旅を始めた頃にも思ったことだが、あまり親しくない人間同士が会話なく、黙々と歩くのはなんとなく気まずさを感じる。ディルク達との旅の終盤やモニカと二人であるのならば特に何も感じない沈黙。
マキナはそう言うものだと割り切れるが、知らない誰かがいるだけでこうも心をざわつかせるものなのか……
ヴィクトリアが男性であるのならば、出身や目的など話を振っても構わないと思えるのだが、いかんせん年頃の女性である。不躾に根掘り葉掘りと質問を投げかけるのも憚られる。しかもこんな格好で一人旅をする意味など、よっぽどの事情があると推察できる。
それに先程見た彼女の圧倒的な武力。ヴィクトリアのどこにあるかもわからない逆鱗に触れて行使されでもしたら間違えたではすまない。
「あの……ヴィクトリアはいくつなの?」
モニカもイグナール同様に思っていたのか、おずおずとヴィクトリアに質問を投げかける。あたりさわりのない質問だが、男性から女性に年齢を尋ねるのはあまり褒められたことではない。しかし、同性のモニカならば問題ないだろう。
「十八じゃ。お主らはどうなんじゃ?」
やはり思っていた通りそう変わらない年齢であった。しかし、ヴィクトリアが纏うモニカとは一線を画す大人びた雰囲気は、彼女の古びた言葉遣いだけではないとは思うが……
「私は十六で、イグナールが十七だよ」
「ほう、年は近いだろうと思っていたが、案の定であったか」
女性にしては少し低めに感じる声のトーンが少し上がる。心なしか嬉しそうだ。
「妾の国はノルデン地方の田舎でのう、同じ年頃の子供がおらんのじゃ。遊び相手と言えば、ばば様くらいでな」
「ヴィクトリアはおばあちゃん子なんだね。お父さんとお母さんはあまり遊んでくれなかったの?」
「父上と母上は妾が幼い頃に亡くなってな……ここまで育ててくれたのがばば様なのじゃ」
上がっていたトーンが下がり、悲しげに語るヴィクトリア。先頭にいるイグナールには彼女の表情は窺い知れないが、想像はつく。
「ごめんなさい……」
「気にすることはないぞモニカ。悲しくはあるが、寂しくはない。妾をここまで育ててくれたばば様はまだまだ元気じゃからの」
初見の苛烈さから抱いた、彼女への畏怖の念に似た印象は変わりつつあった。




