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act.63 熟練の土属性魔法使い


 その光景を目の当たりにした盗賊達は、蜘蛛の子を散らすように各々が走り出した。情けなく悲鳴をまき散らしながら、生存本能の赴くままに森の中へと消えてゆく。あれだけの力の差を見せつけられたのだ。彼らの行動を情けないと、誰が揶揄することが出来るであろうか。


「ふむ、情けない限りじゃな。ん? そちらは奴らの仲間かえ?」


 ゴーレムに向きを変えさせ、イグナール一行に目をやる。あの圧倒的な力を見せつけたゴーレムと生みの親である彼女と対峙する。正面に立つ魔力を通わせた土塊のなんと威圧的なことであろうか。男を屠った一撃は強烈な印象を植え付けたが、それ以上に一人の魔法使いとして興味も沸く。


 土属性魔法のゴーレム生成は、その魔法使いのイメージで大きく形を変えるが、それよりも生まれ持ったセンスと練度、そして注ぎ込む魔力量がものを言う。


 どれだけゴーレムとのタイムラグを短縮できるか、どれだけ高度なルールで稼働させられるか、どれ程の量を生み出し操ることが出来るか。これは経験と練度、そしてもって生まれたセンスが大きい。


 そしてその耐久と物理的な単純な強さには、その魔力量が大きく関わってくる。どれだけ高密度の魔力で生成するかがゴーレムの強さに直結するのだ。


 彼女が生み出し、使役するゴーレムは膂力、速さ、強度のどれをとっても一級品と言えるだろう。イグナールと大きく年齢も変わらないように見える彼女がこれ程のゴーレムを生成できるのが興味深い。


 おいおい、忠告する相手を間違えてるぜ。


 イグナールは圧殺された盗賊の亡骸を見ながら先程の商人の男を思い出す。


「俺達は盗賊と無関係だ。逆に商人の男から君――」

「ヴィクトーリア・フォン・クレヴァリーじゃ。ヴィクトリアと呼んでくれても構わんよ」

「あ、ああ。俺はイグナール・フォン・バッハシュタイン。こっちは旅の仲間のモーニカ・フォン・ハイデンライヒとマキナだ」


 俺の紹介に頭を下げるモニカとマキナ。


「それで、ヴィクトリア。俺達もルイーネに向かう道中なんだが、それで商人の男から、良ければ君をルイーネに送り届けてくれと頼まれたんだ」

「ふむ、アノおせっかい商人か。どうにも商人と言うのは腹に一物抱えた者ばかりで信用ならん。まぁ今度会う機会があったならその考えを改めようかのう」


 ヴィクトリアはゴーレムをただの道に戻した。まるでこの場ではなにも起らなかったかのようだ。木にもたれ掛かる盗賊の死体を除けばであるが。

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