act.59 目立つ存在
バージスを出てルイーネを目指すこと三日。何事もなく旅路は順調である。問題があるとするれば、マキナのメイド服が時折すれ違う旅人から奇異の目で見られるくらいだろう。当初ローブを着せて隠す案もあったのだが――
「命令であるのならば受け入れます。しかし、この衣装は私共の誇りでございます。寛大な処置をお願い致します」
以前、マキナはそのメイド服を奉仕の精神を表す戦闘装束と評していた。彼女を生み出した研究者に着せられていると言うイメージであったが、誇りを持っているとまで言われると是非を問うべきではない。
誇り高き騎士が名誉のために頂いた鎧。マキナにとってのそのメイド服はそう言った自分を指し示す代物なのかもしれない。まぁ少々目立つことには目を瞑ろう。別にイグナール本人がジロジロと見られているわけではないのだから。
それにさすがに三日もそんな目に晒されてきたイグナールも慣れると言うものだ。だから、前方からやって来ている大荷物を抱えた男が、こちらを好奇の目で見ているのにも思うことはない。後ろには腰に剣を携えた男が二人。ルイーネからバージスへと向かう商人とそれに雇われた傭兵だろう。
そう言った一団とは何度もすれ違った。イグナール一行は少し左により、相手が通る道を作る。そしてお互いの顔がよく見える程の距離になった時――
「おい、あんた達。いやそこのあんた」
大荷物を抱えた商人らしき男はメイド服を着たマキナを頭から足まで観察するように見ながら声を掛ける。呼び止められたのは初めてだ。
「私でしょうか?」
その商人に向かってマキナが尋ねる。
「そうだ。あんたもしかして連れのお姫様を探してるんじゃないのか?」
マキナはさて何のことでしょう? と言わんばかりに無表情のまま小首を傾げる。イグナールとモニカも同じように小首を傾げる。突然のことで彼が何を言っているのかが理解出来ない。
「すみません。いったいなんのことでしょうか?」
彼の問いに固まっていたイグナール一行だったが、モニカが先に動き出し聞き返す。
「いや、この先の林道で豪華なドレスを着たお嬢ちゃんがいてな。その子がお連れの人間も付けずにほっつき歩いてたんだよ。ここらは整備されてるから魔物はあまり出ないが、最近は盗賊がうろついてて危ねーぞと声を掛けたんだが……自分にかまうなと一蹴されちまってよ」
イグナールにはそんな豪華なドレスを着て、街道を歩き回るような子に皆目見当もつかない。完全にに耳に水と言うやつだ。モニカにも思い当たる節がないようで複雑な表情を浮かべている。マキナは――無表情で読み取ることは出来ないが、勿論心当たりはないであろう。




