act.58 目指すは遺跡の町
食堂のテーブルに地図を広げる。そこにはイグナール達が住む世界、『ウェルト』のすべてが描かれている。中央には地図の八割を占めるコンチネント大陸。東部分の六割には山や森、主要な河川や町などが描かれているが、その反対側、西の四割程度は殆ど空白だ。その空白の真ん中に魔界という文字がでかでかと書かれている。
少し古い安価な地図でも普通に暮らす人々――魔界に触れる事のない人々――には困らない代物である。世界はもっと広い、海の向こうにも別の大陸が存在すると言う説を唱える人もいるが、現状それを確かめに船旅に出て、戻った者達はいない。
だからこの地図に描かれた世界がイグナール達のすべてだ。そこへモニカが施設の地点を書き足し、現時点では世界に人一つしかない地図と言ってもいいだろう。正確さには欠けるが、細かい位置はマキナが把握しているらしいので問題ないだろう。恐らく、先の研究所のように秘匿されていたとしても問題なく発見できる。
「やっぱり目的地としてはルイーネよね」
未開の遺跡があると言うルイーネはバージスから殆ど真っ直ぐ東の位置にある。そこにはモニカが記した印も書かれている。その未開の遺跡とは古代の研究所、それに類する施設に違いない。つまり、イグナールの知りたい情報が眠っている可能性が高いと言うことだ。
ギルドの受付であるカミラが紹介してくれた、古代魔法の研究者がいるのもルイーネである。元々マキナの案内が無ければルイーネに行く予定であった。今回のことでその重要度がさらに上がったと言える。
「その後は……この施設を目指そう」
さらに東、巨大な山脈ヴァスティーアに阻まれてはいるがその先にも施設を示す印が書かれている。山越えとはなるがルイーネから一番近い施設であることは間違いない。山越えと言っても比較的低地でしかも、人の手によるある程度は整備されているので辛い旅にはならないはずだ。
人や荷物が行きかう道の先に要衝として村ができ、それが発展を遂げてルイーネとなった。
「それじゃ、取りあえずルイーネに向かう事で決定ね。問題はお金なんだけど……」
ヒューマン・スライム討伐で多めに貰ったとはいえ、さすがに心許ない。
「ルイーネにも討伐ギルドがあったはずだよな? 何か依頼を受けて準備するしかないな」
バージスで資金調達のために滞在してもいいのだが、質はいいものの、この町はいろいろと割高だ。それに現状のイグナールとモニカのランクで受けられる依頼も少ない。効率的にと考えれば、早々にルイーネに移動すべきだ。
「よし、午後は準備にあてて出発は翌朝にしよう」
「はーい。今度は寝坊したら許さないからね?」
「ああ、気を付けるよ」
イグナール一行は宿屋の食堂を出て、旅の準備のために繰り出した。




