act.56 休息
研究所のエネルギー補充を終え、動力室を出たイグナールとマキナ。それを笑顔のモニカが迎える。
「イグナール大丈夫?」
モニカが心配そうにイグナールの顔を覗いてくる。いくら常人離れした魔力量と言っても、一つの施設を賄う魔力を放出したのだ、疲労の色が隠せないのも無理はない。
「少しフラフラするけど大丈夫だ。少し休んだら出発しよう」
「申し訳ございません。マスターからたくさん搾り取らせて頂きました」
間違ってはいないのだが、マキナの言葉選びには悪意に似たものを感じる。あえて誤解を招きそうな表現をしたのだろうかと訝るイグナール。
そんな事を聞いていたのか聞いていないのか、微妙な表情を浮かべて「お疲れ様」と労いの言葉を投げかけてくるモニカ。
彼女の様子が少し変だ。
そう感じたイグナールはモニカの様子を観察する。特に変わった様子はないようだが、元気が無いように感じる。
やはり強がってはいても背中の傷が痛むのだろうか?
「モニカ? 傷が痛むのか?」
「え? 大丈夫だよ。どうして?」
彼女は驚いたように目を見開きイグナールに答える。やはり無理をして平気な振りをしているのかもしれない。ならば早くバージスに戻って温かい食事とベッドを用意するのが一番いい。
「いや、大丈夫ならいいんだ。それじゃあバージスに戻ろう。今日はゆっくりやすんで今後の予定は明日にでも考えるとしようか」
モニカはその意見に賛成を示し、マキナは静かに頷いた。
◇◇◇
翌朝――と思っていたが高く上った太陽を見てイグナールは呆然とする。昨日の夜、朝食でも取りながら今後の予定を決めようと言い出したにも関わらずこの寝坊である。約束の時間はとうに過ぎて――太陽の位置から恐らく昼過ぎ辺り――いるだろう。
心の片隅ではしまったと思っているが、今更と思う諦めと彼女達を待たせた罪悪感が大半を占めている。
おかしいな。
イグナールにしてもこの大寝坊は想定外である。勇者ディルクから剣術を教わった時期から体を休めながらも、有事にはすぐさま対処できるようにと武人の睡眠術を教わった。主に野営の際に危険から身を守るための術である。それ以降惰眠を貪ることはなくなっていたのだが……
比較的安全な宿屋で気が抜けていたのかと考えるが、主な原因にはすぐに辿り着いた。
「魔力の消費って言うのはかなり疲れるんだな……」
今までほとんど魔力の消費をしたことが無いイグナールには新しい発見だ。ベッドの誘惑を断ち切り、のそのそと準備をする。さて、彼女達になんて謝るべきだろうかと考えながら、部屋の扉に手を掛けた。




