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act.52 御神体級


 マキナを先頭に動力室へと足を踏み入れる。モニカには非常に不評であった動力室ではあるが、イグナール個人としてはこのごちゃごちゃした感じにロマンに似た何かを感じざるを得ない。


 こんな事を口に出した場合、考えられるモニカの反応はこれだから男の子は……か、言葉なしに身心共に距離を置かれるかだろう。縦横無尽に広がる管をワームと表現したモニカ。それを見てロマンと口走るイグナール。あらぬ趣味の疑いを掛けられてはこれからの友人関係にヒビを入れかねない。


 そんなことを知ってか知らずか、遅々として進まないイグナールの歩に合わせてマキナが歩く。彼女は一切後ろを振り返る事なくスピードを合わせてくる。後ろに目があるのではないだろうか? と疑う程だ。


 そして、ある程度堪能して満足したイグナールが前を向くとマキナがこちらを向いて待っている。彼女の背後に大きな箱が見える。


「マスターこちらでございます」


 イグナールが側までやってくると、その箱に取り付けられている突起を迷いなく、軽やかに押し込んでいく。


 ピー!


 けたたましい警戒音とは正反対な静かな音と共に箱が開く。イグナールは興味津々でのぞき込む。


「なんだ……これ……」


 そこには眩い程に輝く宝石が一つ鎮座していた。イグナ―ルの目から見てもそれは宝石だとわかるのだが、彼が驚いたのはそのサイズである。見た目は宝石でも、その巨大差がそれを光る岩なのではないかと誤認させる。


「こんな巨大な宝石は初めて見た」


 今だ訪れたことのない国には、巨大な宝石を神体として崇めているところもあるとモニカから聞いたことがある。それがどれ程の物かはわからないが、その神体に匹敵するほどの代物ではないだろうか。


 しかし、巨大さに面食らったもののこの宝石からは神々しさは感じない。宝石が持つ独特の魅力を発していない。そう言った知識に乏しいイグナールではあるが、直感的にこれが宝石であることにふつふつと疑問が湧いてきた。


「なんか違うな……」


 その疑問が言葉になって吐き出される。


「これは魔力を大量に貯蔵するための人工結晶でございます」


 自然の神秘である宝石の真逆、人の技術の粋で生みだされた、まさに努力の結晶。イグナールに襲い掛かった違和感の正体はそう言う事なのだろう。


「ではこちらに触れて頂き、魔力の放出をお願い致します」


 マキナに促されるままに人工結晶に触れ――


「『我に眠りし力よ、我が意思に従え』」


 己の中にある魔の力を呼び起こし、放出を開始した。


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