act.41 ん?
「大丈夫か? モニカ……」
戦いが終わり、モニカの側へ駆け寄るイグニール。
「うん、大丈夫だよ!」
傷は浅いかもしれないが、辛いことに違いはない。額に汗を見せながらも彼女は気丈に振る舞って見せる。そんな彼女にイグナールも気丈に返したいところだが……
「すまなかった……ありがとう」
彼女に対しての言葉はこの2言しか出てきてくれない。
イグナールとモニカの間に沈黙が訪れる。決して沈鬱とした重たい空気ではないが、気まずいことに違いない。
「モーニカ様、応急処置を致しましょう」
その中に入り込んでくるマキナ。2人の空気を察したのか、それとも読まなかったのかはわからないが、話が進まないイグナールとモニカにとっては好都合であった。
「えと大丈夫、マキナ。自分で出来るから」
彼女はカバンから傷によく効く薬草を取り出す。
「『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『静かなる導もて、癒しの助力と成せ』」
モニカの手からキラキラと輝く水が湧きだす。それは薬草を攫い、背中の傷へと向かった。
「アシストヒール」
彼女の言葉に呼応し、薬草を含んだ水の塊は薄く広がりモニカの背中の傷を優しく包む。
「これでバッチリ! 1日もあれば治ると思うわ。もしかしたらちょっと跡が残っちゃうかもしれないけど……」
男の傷は勲章だが、女性の……それも多感な時期の女の子には呪いのようなものだ。
「俺を治した時みたいにはいかないのか?」
イグナールは雷に打たれ、瀕死だった彼はモニカの回復魔法により助かった。驚くべき回復力で翌日には火傷の跡すらのこらず完治していたのだ。
「確かにあの怪我は殆ど治ったけど……それはイグナールの魔力量がおかしいからなのよ。それを加味しても異常な回復力だったけどね」
モニカの回復魔法は万能の秘薬ではない。あくまで怪我人の魔力を消費して自己治癒力を高める効果なのだ。大怪我であるならばそれだけの量の魔力が必要であり、本来なら数日かけて治療していくものだ。
イグナールの場合、彼女の夜通し行われた献身的な治療もあるが、大きな要因は彼が持つ生まれ持った規格外の魔力量である。
モニカの傷は今回イグナールの失態といってもいい。彼はそれを深く反省し、彼女以上に呪いにかかってしまっている。薄く水のベールに包まれた傷口を見る度、彼の心に突き刺さるものがある。
「お、俺に何かできる事はないか? 俺に出来ることなら何でもする――」
「ん? 今何でもするっていったよね?」
モニカが不敵な笑みを浮かべていた。




