act.33 撃退準備完了
「『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『揺蕩う水よ、形を成し顕現せよ』」
マキナの合図を受け、モニカも戦闘状態を整える。彼女の周りには大小様々な水弾がいくつも出現し漂う。頑強な敵、素早い敵、どのような敵が来ても対応できるようにばらけさせたのだろう。
そして彼女はその水弾の中から人の頭ほどの大きさである水弾を両手で取る。
「『それは仇なす者を貫く矛なり』」
モニカの手にある丸い水弾が彼女の言葉に呼応して形を変える。それは細長い棒状へと変化し、モニカの手に収まる。
「アクアランス!」
通常は相手を刺し貫く投擲の魔法であるが、今回はモニカが手で扱う武器として活躍する。更にもう1つ水弾を引き寄せる。
「『我に纏いて助力と成せ』」
水弾はモニカを覆うように薄く広がり体全体を包んだ。非力な彼女を補助し、鎧にもなるモニカの身体強化魔法である。
中距離、遠距離を大小様々な水弾で対処し、近寄る敵は手に持った水槍で貫く。これがモニカなりの戦闘スタイルである。先のヒューマン・スライムのように、水魔法へ強力な耐性をもつ特殊な敵でなければ彼女のスタイルは盤石と言える。
そして、これだけの魔法を展開しても疲労の色を見せない魔力量、これだけの数を制御しうる魔法の練度。先程まで取り乱していたとは思えないような落ち着きようを見せる精神力と胆力。勇者パーティで2年もの旅をしてきたモニカの実力は魔界入りも全く問題ない実力者だろう。
そんな幼馴染を頼もしい仲間として尊敬し……同時に強い劣等感を抱き続けてきたイグナール。
だが、今は違う。
あの時は確かに魔界へ出向くには力不足だったかもしれない。しかし、今はモニカと肩を並べて戦いうる可能性を有している。比肩しても遜色のないポテンシャルを持っている。そう考え、思えるものを持っている。
「『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『剣に纏いて助力と成せ』」
今、彼が安定して扱える魔法は己が武器への属性付与だけだ。だがいずれ追いついてやる。決心を新たに紫電を纏った剣を構える。
俺だって2年間何もしていなかったわけではない。剣技で屈指と言われる勇者ディルクから直々に学んだんだ。その努力はきっと嘘をつかない。だから自信を持って揮え。新たなる力と共に!
「来ます」
マキナの言葉が言い終わるかどうかのタイミングで扉から守護者が顏を出した。




