act.28 道すがら
「俺の放出した魔力が原因だったのか」
「はい。そして私はマスターとモーニカ様を観察しておりました。協力を仰いでもいいものかと」
「それがあの事態になったわけだが……」
「申し訳ございません。何分緊急でございましたので。それとあまりにもお2人が――」
「マキナ!」
イグナールとマキナの会話にモニカが割って入る。特に興味を示していないように見えていたが、ちゃっかり聞き耳を立てていたようだ。
「おっとこれはモーニカ様から内密にと言われておりました」
「絶対ダメだからね!」
「なんなんだよモニカ……」
1人頭を捻り、なんの事かと考えてみるが検討がつかない。
モニカも知られたくない様子だし、深く考えるのも野暮と言うものだろうとイグナールは思った。
イグナール一行は森に入ってからはマキナを先頭にして進む。しかし、彼女の道案内は道を案内してくれない。ただただ、目的地に向かってずんずんと突き進んで行く。立ちふさがる茂みをものともしない。
先頭のマキナが道を切り開いていくので、あとに続くイグナール達は多少マシとはいえ、それでも進みにくい。質の悪い獣道といえよう。
「マキナ。少し待ってくれ、こっちはかなり進みにくいんだ」
「配慮が足らず申し訳ございません」
後ろに付いて来ているモニカが徐々に遅れ始めたのでマキナを止めるイグナール。かき分けられた茂みに服が引っかからないよう、むき出しの白い太ももに傷がつかぬように慎重に進むモニカ。
「マキナもそんな服でこんなところを進むと破れるぞ」
彼女の詳細はわからない。マキナ曰く、オートマトン、人形とのことだ。この程度で肌は傷つかないのだろうが、服は別ものではなかろうかとイグナールは考える。
「問題ございません。これは防刃仕様となっております」
軽くスカート部分を持ち上げ優雅な会釈を見せるマキナ。その仕草が純粋に可愛いと感じたイグナール。
「そういえば、どうしてそんな服装なんだ? 戦いとなればもっと動きやすそうなものがありそうなもんだが……」
これは彼の素朴な疑問である。
「マスターへの奉仕の精神を表すためと言われています。これが私共の戦闘装束なのです」
古代の研究者が何を考えてそう定めたかはわからないが、私共……マキナと同じオートマトンの事を言っているのだろう。
「研究所にはマキナの仲間がいるのか?」
「いえ、私以外の機体は確認出来ませんでした」
「一人……なのか」
「そうとは限りません。ほかにも研究所はございます。私のように保管されていたオートマトンが他に存在するやもしれません」
マキナは人形だ。感情らしいものはないように見える。
しかし、この世界でたった一人というのはきっと寂しい……そう思うイグナールだった。




