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act.100 救いの女神


「アクアボール!」


 最後にモニカの声が聞きたかった……そんな要望に応えて、脳が記憶から彼女の声を再現したのかもしれない。だからこれは幻聴だ。決して浅くはない怪我をしたモニカをマキナに頼んだのだ。モニカの戦線復帰などあり得ない。


 そんな考えを打ち砕くかのように、クルトが後退り。彼がいた場所を大きな水弾が通過していく。


 水弾が放たれたであろう方向に視線をやるとモニカと、彼女を背負ったマキナの姿があった。すでに彼女達の周りには多くの水弾が展開されている。木々の後ろ側にもあると考えるなら無数とも言えよう。


「イグナール大丈夫!?」


 大丈夫かと聞きたいのはこちらのほうだ。しかしモニカの意識が戻ったのならば、回復魔法で応急処置は済ませたのだろう。そしてすぐさまこの場に戻ってきたに違いない。マキナが彼女を背負っているのは万全ではないモニカの脚となるためなのだろう。


「ああ……大丈夫だ!」


 モニカに向かって力強く返事をする。先程までの弱気な自分をぶん殴ってやりたい気分だ。自分はたった一人だと、生きることも諦めてしまうほどに弱いのかと。だが、今はそんな弱い心は見せられない。


 その根源がどこにあるかはわからない。何がそうさせるのはわからない。しかし、心の奥底でそう思うのだ。彼女に、モニカにこれ以上情けないイグナール・フォン・バッハシュタインを見せるわけには行かないと。


 イグナールは立ち上がり、剣を構える。鋭い眼光でクルトを睨み付ける。


 一方クルトは思わぬ増援に困惑しているようだ。無数とも言える水弾が漂う、モニカの領域。研究所の守護者(ガーディアン)程の硬さが無ければ、彼女の作り出した水弾は凶器となりうる。イグナール同様、人間との命の取り合いはモニカも初めてだ。きっと内心で大きな葛藤もあるだろう。


 だから、奴を倒すのは自分でなければならない。剣を突き立て、息の根を止めるのは自分でなくてはならない。ボロボロになって散った決意をかき集め、無理矢理にまとめあげる。


「援護は頼んだぞモニカ! 奴の逃げ場を無くしてくれ!」

「任せて!」


 この場の誰よりも速いが直線的な動きしか出来ないイグナール。速く柔軟な動きも出来るクルトには意味を成さない速さだが、モニカが奴の動きを制限してくれるならば……


 水弾が舞ってクルトを包むように移動する。そこに一本の道が出来る。イグナールは剣を刺突に構え直し、地面を踏みしめる。


「もっと、もっと力を! 速さを!」


 彼を包む紫電の光が強くなり――雷の如くイグナールは撃ち出された。


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