act.1 勇者パーティからの追放
人間界と魔界を隔てる断崖。そこに建てられた人類の拠点であり、魔物たちと戦う最前線の基地である町『バージス』、魔王討伐を目指す勇者一行が人間界に置いて最後に訪れる中間目的地だ。
『イグナール・フォン・バッハシュタイン』を含む勇者一行も2年の歳月を掛け人間界を回り、魔界で耐えうる力をつけ、バージスに辿り着いた。そして魔界への出発を明日に迎え、とある酒場で人間界最後の晩餐を楽しんでいた。
「なぁ、イグナール……ここまで来て申し訳ないんだが、お前はここに残れ」
イグナールを連れ2年もの間旅してきた仲間、その一行のリーダ―であり選ばれた勇者『ディルク・バーデン』が彼に告げたのは解雇通告。
「おいおい、ディルク。酔っぱらってるからってそれは悪い冗談だぜ。それに俺はまだ酒の飲める年齢じゃねーから素面だぜ?」
乾いた笑いを浮かべて冗談と断じるイグナール。だがディルクの顔は真剣そのものだ。これは嘘ではないとイグナールも薄々気が付いている。
「お前もわかっているはずだ。これからの旅はお前にとって荷が重い。今のお前じゃ魔界に踏み込んでも無駄死――」
「ふざけるな! 俺が何のためにここまで来たって言うんだ! こんなところで引き下がったらお父様とお母様が築いた名声に泥を塗ることになるだろう!」
「じゃぁ、はっきりと言ってやるよ。お前はこの先足手まといだ」
それを告げるとディルクは酒場から出ていった。残されたイグナールはうな垂れ、テーブルに突っ伏した。
わかっていた、わかっていたんだ。他の仲間たちを置いて俺だけを誘った時からじゃない。バージスに辿り着く少し前から……イグナールは涙し、酒場を出た。
魔界が隣接するためかバージス周辺の気候は安定しない。さっきまでまんまるの月が綺麗に見える程に晴れていたにも関わらず、今は大雨が降り注ぎ、雷が轟く。まるでイグナールの涙を覆い隠し、情けない泣き声をかき消すように。
彼は走った、こんな情けない姿を見られたくないと。一心不乱にバージスの外へと。そして町を離れ平原の真ん中で膝を折る。
「偉大な魔法使いである両親の元に生まれ、約束された人生を歩むと思っていたのに……どうして、どうして何時までたっても魔法の才能が開花しないんだ!!!!」
突然、イグナールの叫びに共鳴するように雷が彼に降り注いだ。
「あ、あああああああああああ!!!!!」
雷は彼の体を掛け巡る。血を沸騰させ、神経を焼き、皮膚を焼く。
「イグナール!」
聞き慣れた声が自分の名を呼ぶのが聞こえる。
だが、全身の激痛に耐えかねイグナールの意識は暗闇の中に引きずり込まれた。
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