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星を追いかけて

「うわー、いるいるー」


 そんな風に、舞台袖のカーテンから客席を見ながら軽音部の結城紘斗(ゆうきひろと)は、はしゃいだ様子でそう囁いた。

 学校祭二日目、軽音部のライブ開演直前。

 その会場となっている体育館には、吹奏楽部以上に人が来ると聞いていたが――


「……おいおい、なんじゃこりゃ」


 紘斗の頭越しに見えるその光景に、滝田聡司(たきたさとし)は顔を引きつらせて同じくそう囁いた。


 体育館に、尋常じゃないほどの人がいる。


 一学年くらいは余裕でいるだろうという状況だ。

 今日の昼間に吹奏楽部のステージをやっている聡司には、正直信じられない光景だった。

 イスなどがなくて前に詰めるように密集しているからかもしれないが、なんだかものすごく人がいるように見える。

 しかもその人数が、ザワザワとはしゃぐようにしてなにかをしゃべりあっているのだ。

 始めて経験するその雰囲気に、聡司はしばらく呆然としていることしかできなかった。そりゃあ確かに吹奏楽部ではできないことをやってみたいと思ったが、これはちょっと想像を超えすぎて、もはやカルチャーショックですらある。

 しかもその中で、これから自分は叩かなければならないのだ。

 まったくどうなるのかが想像できなくて、緊張を通り越してあまり現実感が湧かないくらいだった。

 そしてそんな風に戸惑っていると、ベースの石岡徹(いしおかとおる)が言う。


「そろそろだ。客席の照明落として、舞台の照明上げるぞ」

「お、おう」


 登場したら、キャーとか黄色い声あがんのかな――などと、あまりの非現実感にそんなことまで考えながら、聡司は返事をした。

 まあそんなことはあり得ないだろうけど、考えるだけだったらタダだとも思う。

 ゆっくりと、徹が客席の照明を下げ、舞台の照明を上げていく。それに気の早い女子たちが、キャーと歓声を上げるのが聞こえた。


「えー?」


 それがなんだか夢の中から聞こえるようで、聡司はその声を不思議に思いながら聞いていた。



 ♪♪♪



 そういえばオレ、最初は軽音部に入りたかったんだ――と。

 ステージの上から客席を見下ろして、聡司はそんなことを考えていた。

 考えようによっては、自分は今その希望を叶えたとも言える。

 軽音部で用意されたドラムのイスに座って、これから自分はライブをやろうとしているのだ。

 一番奥のドラムの席に座ってしまうと、暗くなった客席はほとんど見えなくて――あとはもう、照明に照らされたバンドのメンバーしか見えなくなってしまった。

 まるで暗闇の中で、自分たちだけが浮かんでいるようでもある。


「……滝田、最初の合図頼むぞ」

「……おう」


 隣から、キーボードの岩瀬真也(いわせしんや)の囁く声が聞こえた。

 久しぶりの本番ということで緊張していた彼だが、どうやら少しは腹も据わったらしい。

 今はしっかりとした眼差しで、こちらのことを見ている。なんだかんだ言って、意外とこの四人とも馴染んだよな――と、聡司はドラムのスティックを握り、周りを見渡して思った。

 そう、曲の最初はドラムの自分のカウントから始まる。

 ベースを構えた徹が、いつものように無言でうなずくのが見えた。

 ギターを下げてマイクの前に立った紘斗が、振り返って全員に言うのが聞こえる。


「みんな、聞きあっていこうね!」


『了解!』


 そしてそれに、全員で応えて。


 聡司は――始まりを告げる音を打ち鳴らした。



 ♪♪♪



 最初の曲は、聞きに来ている人全員にわかるようにと、レパートリーの中で一番有名な曲から始めることにした。

 なので、その曲のイントロが始まった瞬間、あ、これ知ってる! とか、これ好きー! とか、そういう声が入り混じって、ワアァァァァ……ッ! という歓声になって押し寄せる。

 それは暗闇の中から、小さな星たちが一斉に流れてくるように感じだった。

 その中を走り抜ける。ほんの少しずつ速さを上げて駆けていくと、その流星たちが通り過ぎていってステージのライトと混ざり、周りがもっと明るくなったように感じられた。

 夢中で駆け抜けていると、その中で紘斗が歌いだす。

 星を全て束ねるようにして。

 それを追いかけるようにして、全員の演奏が重なる。


 その輝くを星をずっと追いかけるために。


 このライブはただそれだけのために、今始まった。

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