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懐かしい響き

「今日子、お正月、どうするの?」

「そうだなあ。こっちで特に用事もないけど、交通費も高いし、こっちにいようと思ってる」

「交通費なら出してあげるわよ」

「でも混雑するし……。年が明けて落ち着いたら帰るよ」

「そう……」

 母親の声は寂しそうだった。

 母一人子一人だから、母親も独りぼっちのお正月を過ごすことになる。



 私が小さい頃、父親を病気で亡くしてからは、母親は女手一つで私を育ててくれた。

 そして、今年の春。

 東京の大学に入学した私は、上京して初めての一人暮らしを始めた。

 都会での生活は見る物すべてが目新しくて、入学早々に親しくなった同じ地方出身の「チカちゃん」という女友達と一緒に、東京近辺の観光地巡りをしたり、コンパにも積極的に参加していた。

 でも、父親がいない我が家は経済的に恵まれているわけではなく、東京での生活も落ち着いてきた夏以降には、自分の生活費は自分で稼ぐように、ファミレスのウェイトレスのアルバイトを始めた。

 チカちゃんとは疎遠になってきて、たまに大学で会うと立ち話をする程度になっていた。

 アルバイトをしだすと、自分でも節約的な考え方をするようになって、また、東京に住んでいることが日常になったこともあるだろうけど、遊びに行くこともなくなって、大学とアルバイト先と自宅を往復する毎日になっていた。

 でも、もともと、ゲームをしたりアニメを見たりが好きなオタク趣味を持っていることもあって、友人たちと遊べなくなったからといって、寂しいと思うことはなかった。

 

 

 アルバイトを終えた私は、近くにある同人誌専門書店「ワンコ堂」に立ち寄り、お目当ての同人誌を仕入れた後、夜の街を家に向かって歩き出した。

 ワンコ堂の名前入りビニール袋を提げていると、自分がオタクだということがバレバレになるので、ちょっと前までは鞄にしまっていたが、今はそのまま手に持っている。東京での生活を始めると外交的でお洒落な自分に変われるなんて幻想はとっくに覚めている。

 とはいえ、季節は十二月。

 都会で初めてのクリスマス。

 街路樹に取り付けられたさまざまなイルミネーションや、綺麗に飾り付けされた店頭を眺めながら歩いている幸せそうなカップルやグループとすれ違っていると、自分だけが取り残されているような気分になってきてしまった。

 ひょっとして、東京という街は私がいるべき場所じゃないのかな?

 

 

「メリークリスマス! サンタさんからプレゼントをもらうだけじゃなくて、あなたも誰かにプレゼントをしてみませんか!」

 サンタクロースのコスプレをした人が突然、話しかけてきた。

 白いひげをつけているけど、若い男性だと分かった。

 掲げているプラカードを見ると、献血の勧誘のようだ。

「ごめんなさい。私、貧血気味なので、きっと取れないと思います。以前もそうだったし」

「そうなの? それは残念。もっと、もりもりと食べて栄養を付けてね」

 その人の口調は同じ田舎のイントネーションの気がした。

「あの、もしかして」

 私はおそるおそる出身地を訊いてみた。

「そ、そうだけど、なんで分かったの?」

 その男性は焦った様子で答えた。

「私もそうなんです」

「そうなんだ。でも、おかしいな。俺、もう東京弁になってるはずなのに」

 真面目な顔で言う男性に、私は思わず噴き出してしまった。

 だって、東京弁には全然、なってない。方言のイントネーション丸出しだし。

「もしかして、今年、上京してきたんですか?」

「そうだけど」

「私も同じです」

「そうなんだ」

 訊けば、男性の実家は隣町だった。

 久しぶりに聞く懐かしい方言の響き。それだけで孤独感が消えて行ってしまった。

「なんか久しぶりに地元の方言が聞けてうれしかったです」

「いや、だから東京弁のはずなんだよ」

「ふふふ。じゃあ、お仕事、頑張ってください」

「ああ、待って待って!」

 軽く頭を下げて立ち去ろうとした私を男性が呼び止めた。

「俺、もう少しでこのバイト終わるから、よかったらその後、一緒に飯でも食わない? 懐かしい話とかしたいし」

「ナンパ?」

「違う違う! 俺、ナンパとかしたことねえし」

 焦って両手を振って否定する、背が高いサンタクロースさんは、私の持っていた同人誌専門店の紙袋に注目した。

「おお! それワンコ堂の?」

「ワンコ堂、知っているんですか?」

「あっ、いや。噂で」

 分かりやすい。

「本当はオタクなんでしょ?」

「ち、違うし!」

「ふふふ」

 その焦り具合がおかしかった。

「私はオタクですよ」

「正々堂々と宣言するなし! 俺は違うからな!」

「今日は、前から欲しかった、これを買ったんですよ」

 私がビニール袋から同人誌を取り出すと、明らかに男性は食いついてきた。

「そ、それは! い、いや、何でもない」

 この人、嘘が苦手みたいだ。

「向こうに懐かしい料理を出してくれる郷土料理屋さんがあるんですよ。知ってました?」

「そうなの?」

「はい。それに値段も安いので、クリスマスイブにもアルバイトをしている私たちでも値段を気にすることはないと思いますよ」

「本当に? じゃあ、そこに行こう!」

「酔ったことをいいことに、襲ってきたら実家に言いつけますからね」

「だから襲わないって!」

「ふふふ」

 私がいきなり饒舌になったのは、懐かしい方言のせいだけじゃない気がする。

 

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