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恋するブタなら空だって飛べる!

「うわー! 何、これ? 桃のタルトだあ? コンビニのスイーツでこれはないだろ! でも、こっちの定番モンブランも捨てがたい! どうする、利佳子? う~ん、悩むうううう!」

「何だ、ブタ子。まだ悩んでいるのか?」

 別の陳列棚にあったお菓子を持ってやって来た野村君が呆れつつも優しい笑顔で言った。

「だってだって、どれも美味しそうじゃない! ねえねえ、野村君なら、三つ目、どれにする?」

 私が持った買い物かごの中には既にシュークリームとロールケーキが入っていた。

「今日も三つ食べるのか?」

「もちろん!」

「さらにブタになるぞ」

「空高く馬肥ゆる秋。ブタだって肥えて良いんだよ」

「おまえなあ」



 私、白石利佳子はブタである!

 小さな頃からぽっちゃり体型で、小学校の頃には「デブ」とか「ブタ」とか言われていたけど、それで悩むことなく、なかば開き直って、大好きなスイーツをお小遣いの範囲内で満足いくまで食べてきた。

 友達に言わせると、私は超マイペースで天然ボケだそうだけど、私はいたって普通だと思っている。でも、男女問わず友達も切れ目なくできて、いじめられることもなかったから、友達の言うことも少しは当たっているのかもしれない。

 そして今、私と一緒にコンビニに入っている野村君は、なんと! 私に初めてできた彼氏なのだ。

 高校一年の時、同じクラスになった野村君は、学力優秀、運動神経抜群、そして超イケメンと三拍子そろった「モテる男子」の典型で、「かっこいいねえ」と友人と話していた私に、突然、つきあいたいと野村君が告白してきた。

 最初は何かの悪ふざけかと思ったけど、野村君の眼差しは真剣だった。

「の、野村君って、太った女の子が好きなの?」

「どっちかというと、そうかも。でも、白石は話してて、すごく面白いんだよ。俺も白石みたいな女の子は初めてだから、つきあってみたいんだ」

 ということで、つきあいだして、もう二年近くになる。

「ブタ子」というあだ名は、野村君が呼びだしたんだけど、今ではクラスメイト全員から親しみを込めてそう呼ばれている。



 私が所属している漫画研究会は、部員おのおのがオリジナル作品を描く活動が中心で、終わりの時間もけっこう自由だ。

 野村君が所属している吹奏楽部の練習が終わる頃を見計らって私も部活を終え、駅まで一緒に帰る途中にあるコンビニに立ち寄るのが日課になっていた。

 今日もそのコンビニで買い込んだスイーツを持って、近くにある小さな公園に入り、野村君と並んでベンチに座った。

 さっそく、買い込んだスイーツの袋を開けた。

「う~ん、美味しいぃ~」

「甘いものを食べている時のブタ子、本当に幸せそうだよな」

「うん。幸せすぎて、空飛んでる!」

「今までダイエットとかしたことないんだっけ?」

「何それ? 美味しいの?」

「おい! しかし、考えてみれば、それだけ食べて、太めだけど今の体型を維持してるってのはすごいよな」

「でしょ! きっと私は、お菓子をいっぱい食べて良いって、神様から許されているんだよ」

「そんなわけねえだろ! でも、もうちょっと痩せたブタ子も見てはみたいな」

 私の心に少しだけ不安が影を落としたけど、その不安を野村君には悟られないように表情は変えなかった。

「でも痩せるとブタ子じゃなくなっちゃうよ」

「そ、それはそうだけどさ。じゃあ、せめて三個を二個にするとか?」

「野村君は私に死ねと?」

「デザートを最低でも三個食べないと死ぬのか?」

「そうだよ。野村君、まだ、私という生き物を理解してないみたいだね?」

「そりゃそうだよ。お、俺もまだブタ子のこと、全部は知らないしな」

 見ると、野村君が少し照れているように思えた。

「あ~、今、エッチなこと、考えたでしょ?」

「な、何を言ってるんだよ!」

「えへへ、お肌ピチピチだよ。お肉で張り詰めているから」

「ピチピチの意味が違うだろ?」

 野村君は、「はあ~」とため息を吐いて、さらに優しい顔を見せた。

「ブタ子はほんと、天然でマイペースだよな。でも、そこが可愛いと思うけどな」

 野村君のその笑顔。

 うれしいけど、不安にもなる。

「ありがとう~。でもね」

 私は笑顔を納めて、野村君を見た。

「こう見えて、私、本当はいつも不安なんだよ」

「えっ?」

「明日になったら野村君から愛想を尽かされているんじゃないかとか、今のこの幸せは実は夢なんじゃないかとか……。でも、そんなことをグダグダと考えるの嫌だし、だったら、ありのままの自分でいようって思って。それで野村君に振られたなのなら仕方がないやって割り切れるでしょ」

「今のところ、愛想を尽かす予定も、夢から覚める予定もない。ずっと、ない!」

 野村君は真剣な眼差しを返してくれた。

「ありがとう。野村君」

 何だかうれしくなった私は、涙がこぼれないように用心して、頭を下げた。

「な、なんだよ。ブタ子らしくないな」

「そ、そうだね。こんな深刻な雰囲気は、私には似合わないよね」

「おう! いつもどおり、脳天気にニコニコと笑っていてくれよ」

「分かった! じゃあ、これも食べるね」

 私は三つ目のスイーツの袋に手を掛けた。

「やっぱり、三個、食うのな」

「うん! だって、幸せなブタは見えない翼を羽ばたかせて飛んでいるから、お腹が減るんだよ」

 

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