もうっ! 本当に世話の焼ける奴!
「岡村! お前、島原のこと、好きなんだろう! ちゃんと自分で告白しろよな!」
休み時間。
福田君をリーダーとする男子達が岡村君の席の周りに集まって、私にも聞こえるような大きな声で、岡村君をからかっていた。当の岡村君は、申し訳なさそうな顔をして、私の顔色をうかがっているように見えた。
1週間前。
クラスの男子のボスと言って良い福田君が、私の席の近くまで来ると、私の机に片手をついて、ニヤニヤと笑いながら私の顔を覗き込むようにして見た。
「島原。岡村がお前のこと、好きなんだってさ」
岡村君は、勉強はできるけど、運動が苦手で、大人しい男の子だから、クラスの男子からいつもからかわれていた。そんな岡村君が私のことを好きだって言ったらしい。本当なのかどうか分からなかったけど、私自身は岡村君のことは好きでも嫌いでもなかった。
そもそも、誰が誰のことを好きか嫌いかを他人がとやかく言うのって、おかしいでしょ!
「ちょっと、福田君! 何であんたがそんなことをわざわざ私に言わなきゃいけないの!」
ちょっと不良っぽい福田君は、クラスの他の女の子はみんな怖いって言っていたけど、小さい頃から男子といつも喧嘩をしていた私は、このクラスでは唯一、福田君に対してだって言いたいことが言える女子だった。
「岡村の奴、気が小さくて、お前に告白できないから、俺が代わって告白してやったのさ」
「あんた、馬鹿じゃないの! そんな告白されたって全然嬉しくないに決まってるでしょ! 余計なお節介を焼くんじゃないわよ!」
「おお、怖い怖い。俺も島原には敵わねえや」
福田君はふざけて首をすくめながら去って行った。
今日も、福田君達は、ひとしきり岡村君をからかうと、教室から出て行った。
私はもう我慢できなくなって、岡村君の席の近くまで行くと、座っている岡村君を腕組みしながら睨みつけた。
「岡村君! あんたもからかわれて、ヘラヘラ笑っているんじゃないわよ! 言い返してやりなさいよ!」
「ご、ごめん」
岡村君は、私に叱られたと思ったのか、悲しそうな顔をして謝った。
「どうして私に謝るのよ! あんた、私に謝らなきゃいけないようなことでもしたの?」
「……ごめん」
――もう! 何かイライラしてきた!
「あのね、嫌なことは嫌だってちゃんと言わないと、いつまでも福田君達にからかわれるわよ。岡村君はそれでも良いの?」
「……誰にも相手にされないよりは、ずっと良いよ」
「えっ、どう言うこと?」
「あ、あの……」
岡村君は、もじもじと体を揺らして、言い淀んでいた。
「ちゃんと話さないと分からないでしょ!」
「う、うん、実は……」
岡村君は、上目遣いに私を見ながら、小さな声で話し始めた。
「僕、小さい頃は、蕁麻疹が良く出てさ。小学校の時には、ばい菌が伝染るから近くに寄るなって言われて、みんなから仲間はずれにされてたんだ。でも、福田君だけは、いつも一緒に遊んでくれたんだ」
「えっ、そうなの?」
「うん。福田君には、いつもからかわれるけど、暴力を振るわれる訳じゃないし、かかわってくれるだけで僕は嬉しいんだ」
岡村君は本当に穏やかな顔をしていて、言い訳なんかじゃなくて、本当にそんな気持ちでいるみたいだ。
「……そうか。……何か、ごめん。そんな事情も知らずに言いたいこと言っちゃって」
「ううん」
「でも、……でもね。岡村君はそんな風に感じているとしても、福田君だって面白がってからかっているんだから、弱い者虐めには違いないよ。ちゃんと止めてって言わないと駄目だよ」
「……」
「本当の友達って言うのなら、もっと別の接し方があるはずでしょ。今のままじゃ絶対、駄目だよ」
「うん」
「私が、がつんと言ってやるわよ!」
「……自分で言うよ。自分のことだから。……勇気を貯めてそのうちに」
「勇気を貯めてだなんて悠長なことを言ってないで、今日のうちに言いなさいよ!」
「そ、そんな、……せめて今晩一晩、考えさせて」
「一晩考えて何が出ると言うの? もう勝手にしなさいよ!」
私は、福田君のことを怒っていたはずなのに、いつの間にか、その怒りの矛先を岡村君にしてしまったことで、少し自己嫌悪に陥りながら、自分の席に戻った。
その日の放課後。
私が下校していると、すぐ前を岡村君が鞄と体操着を入れたトートバックをそれぞれ二つも提げて、一人で歩いていた。
また、虐められているのかと、岡村君のことが気になった私は、小走りに岡村君に近づいて行って、声を掛けた。
「ちょっと、岡村君!」
「あっ、……」
岡村君は少しばつが悪そうな顔をした。
「その鞄とバックは誰の? ひょっとして福田君の鞄?」
「う、うん、そうだよ」
「福田君は?」
「お腹が痛いって言って、先に走って帰ったよ」
「自分の鞄を人に持たせて?」
「ううん、違うよ。僕が持ってあげるって言ったんだ」
「どうして?」
「すごく青白い顔してて、本当に苦しそうだったからさ」
「……岡村君、どこまでお人好しなのよ」
「ご、ごめん」
「そうやって、すぐに謝らない! 鞄を一つ貸して!」
「えっ?」
「私が持ってあげるわよ。四つも荷物持ってたら重いでしょ」
私は、半ば奪い取るようにして、鞄を一つ持った。
――本当に世話が焼ける奴なんだから!




