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止まっていた時間

「無念なり。真奈香まなかと別のクラスだよぉ!」

 私の横で、中学の同級生で親友の美春みはるが落ち込んでいた。

 今日は高校の入学式の日。

 校舎の玄関前に貼り出された1年生のクラス編成表では、私は3組、美春は5組になっていた。

「本当だ」

 私もちょっと落ち込んだけど、同じクラスの中に見覚えのある名前を見つけて、それが気になった。

「……萩原博人?」

 私と同じ団地に住んでいた幼馴染みと同姓同名だった。

 その子とは、「ヒロ君」、「マナ」と呼び合って、お互いの家を我が家同然のように行き来して遊んでいた仲だったけど、ヒロ君は、小学3年生の時に、お父さんの仕事の関係で引っ越して行ってしまった。

 兄二人とは年が離れていた末っ子の私にとって、まるで兄弟のような存在だったヒロ君がいなくなると知った日は、一晩中、泣いていたことを憶えている。

 あれから、もう6年も経っていて、ヒロ君の顔は、はっきりと思い出せなかった。でも、二人で「冒険しよう」と言って、隣町まで行ったは良いけど、足が痛くて歩けなくなった私を、そんなに背丈は違わなかったのに、ずっとおぶって家まで帰ってくれたヒロ君の背中から見た夕焼け空の記憶だけは鮮明に残っている。

 ――そう、ヒロ君と私との想い出の時計は、そこで止まったままだった。


 体育館で入学式が執り行われた後、それぞれの教室に入って、新しくクラスメイトとなった人達と顔を合わせた。

 担任の先生の自己紹介が終わると、生徒一人一人が自己紹介をすることになった。

 小学校の時からずっと背が低い私は窓側の一番前の席。萩原君は後ろの方の席だった。

 私が一番バッターで自己紹介をした。萩原君がヒロ君だったら分かるように、通っていた小学校の名前も言った。

 萩原君の順番になった。

「第四中学から来た萩原博人はぎわらひろとです」

 私は後ろを向いて、じっと萩原君の顔を見ていたけど、ヒロ君なのかどうか、分からなかった。

 でも、背が高くて、髪がサラサラで、言葉遣いもハキハキしていて、爽やかで素敵な男の子だった。絶対、女の子にモテそうだった。

 きっと、中学から付き合ってる彼女もいるんだろうな。


 自己紹介と先生からの連絡事項が終わると、その日はもう下校となった。

 でも、終わった後も、あちこちで話の輪ができていた。

 私も、後ろの席の女の子から話し掛けられて色々と話をした。これから1年間は同級生するのだから、早く仲良くなれたら良いよね。

 萩原君の席の方を見てみると、萩原君も男の子達と話をしていた。でも、私の方を見ることはなかった。

 後ろの席の女の子と明日は一緒にお昼を食べようという約束をしてから、私は先に教室を出た。ふと辺りを見渡してみると、萩原君はもういなかった。

 やっぱり同姓同名の他人だったのかな?

 知らず知らずのうちに何かを期待していたみたいで、ちょっと拍子抜けしているのに気がついた。

 でも、それも、上履きから靴に履き替えて、玄関を出た所で呼び止められるまでだった。

「マナ!」

 私が驚いて振り返ると、萩原君が立っていた。

「やっぱり、マナだったんだ」

「……ヒロ君?」

「ああ、久しぶり。もう会えないって思っていたけど、こんな所で会えるなんてな」

 そうだとしたら、もう運命的と言うしかないよね。

 でも、近づいて来た萩原君の顔をじっくり見たけど、昔のヒロ君の顔は、やっぱり思い出せなかった。

「全然、分からなかった」

「本当か? ちょっと、ショックだな」

 そう言いながらも、萩原君の顔は笑っていた。

「あっ、いえ。その、……すごく格好良くなっていたから。お世辞じゃなくて」

 ――いきなり、何、言ってるの、私?

「そうか? マナにそう言われると嬉しいな」

「えっ!」

「マナも変わってないな。ちっちゃいところとか」

「……ヒロ君は、私だって、すぐに分かったの?」

「名前を見た時に、ひょっとして、とは思っていたけど、しゃべる時に胸の前で手を組んでいたのを見て、すぐに分かったよ。マナのそのくせ、何か可愛くて、好きだったからさ」

 そう言えば、自己紹介の時も何気なく、そうしていたような気がする。

『マナのそのくせ、可愛くて好きだよ』

 突然、私の記憶の中にヒロ君の言葉が蘇ってきた。

 ――間違いない。ヒロ君だ。

「あっ、あんまり嬉しくて、いきなり、『マナ』って呼んじゃったけど、……良かった?」

 萩原君がちょっと照れながら訊いてきた。

「もちろん! 私も、『ヒロ君』って呼んじゃったけど、……そんな風に呼ばれているところを彼女とかに聞かれると迷惑だよね?」

「彼女なんていないよ」

「そうなの?」

「ああ、昔からずっと好きな女の子がいて、その子のことが忘れられなかったんだ」

 ――その女の子って?

「それじゃ、明日からもよろしくな!」

 私は思わず、校門の方に歩き出した萩原君を呼び止めた。

「あっ、ヒロ君!」

「んっ、何?」

「……私が、足が痛くて歩けなくなったら、……また、おぶってくれる?」

「当たり前だろ」

 その笑顔、……思い出した!

 止まっていた時間が、また動き出した。

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