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残骸・後編

…しばらくして、この手の事件にはつきものだが、I区で都市伝説が流行した。


『かつて惨劇が起きた甘味処の廃墟で寿司を注文すると

 どこからともなく

「寿司はやっていない」

 という声が聞こえる』


とか。

そしてこの言葉に答えるまで建物から出ることはできず…。

さらに寿司を要求すると、世にも恐ろしい目に遭わされるとか。


惨劇を知る地元住民が基となり、そんな都市伝説が作られ、まことしやかに語られるようになったのだ。

そしてそれはI区から全国的に広まることとなった。


――さて、この噂が流れ始めてから、何人かチャレンジしようとする者もいた。

しかし建物は厳重に封鎖されていること、また行政や地域住民の目もあったことから、実際に試したという話は明らかにウソと思われる話を除き皆無だった。


しかしある時、あまり評判の良くない、いわゆる迷惑系YOUTUBERの配信者が、再生数稼ぎのためにこの噂にチャレンジしようと試みる。

彼は犯人の格好通り、サラリーマン風の服装で生配信しようと目論み、行動に移した。


夜中のため監視の目はなく、配信者とスタッフたちはバールやペンチなどの工具で建物の封鎖を力づくで破壊する。

そして建物内に侵入し、生配信を開始した。


惨劇のあった店内で、配信者はスタッフとともに笑いながら言う。

お寿司ください、あとお茶も、とおちゃらけながら。


『何も起こらないだろう、しかし数字は稼げるかな』

そう考えたその配信者一団に、驚くべきことが起こった。


…なんと、声が聞こえたのだ。

その場にいた誰の声とも違う、優しそうな男性の声が。

その声は、こう聞こえた。


「…すいません。うちではお寿司は出してませんでして」


――配信者をはじめとした一団は驚愕する。

まさか本当に!?と、スタッフの中には怯える者もいたが…。

配信コメントで視聴者からヤラセを疑われ、また

『自分に知らされていないだけで、どうせスタッフの仕込みだろう』

と軽く考えた配信者は調子に乗っていた。

そして…。


「じゃ、かっぱ巻きをください」


と言った。

言ってしまったのだ。


…一番最初に気づいたのは、録画しているカメラマンだった。

カメラの中、配信者の後ろに見覚えのない男の姿が見えたから。

短い悲鳴を上げたカメラマンに

『また、おどかそうとしているのか?』

と笑いながら、配信者たちも後ろを見ると…。


そこには…一人の男が立っていた。

にこやかに笑いながらも、手には錆びた包丁を持っている男が。


――惨劇はそこから始まった。


途端にその男は狂ったように笑いだし、近くにいたスタッフの一人を、その錆びた包丁で滅多刺しにしてしまった。

さらにその男は、怯えて逃げ惑う他のスタッフたちを追いかけ、次々とその手にかけていく。


最後に残った一人…配信者は、逃げ惑い出入口にまでたどり着くも


「ドアが、ドアが開かない!!なんで!?助けて!誰か助けて!」


とカメラに向かい泣き叫びながら助けを求めた。


だが彼も、追いかけてきたその男に殺されてしまった。

他の誰よりも、ゆっくりと時間をかけられながら。


生配信のため、配信者が殺される様子は、全世界に中継され続けることになった。

画面越しの視聴者でさえ、悲鳴を上げ泣き出してしまう惨劇のさなか…。

この地域に住んでいる視聴者はその殺戮者の顔を見て驚愕する。

風貌は大きく人間離れし、目をそむけたくなるほど恐ろしく変わったが…。

これは、この店の店主だ…と。


配信者を始末した後、かつては店主であったその『羅刹らせつ』はまた暗闇の中へ消えていった。

血に染まった、その包丁をもって。


当然ながらこの配信は暴力的とされ、すぐに運営により公開停止となった。

だが一時的にとはいえ流れていた『拷問殺戮ショー』の記憶や、視聴者の一部が録画していた動画がネット上に拡散され、この事件はまた日本、いや世界を騒然とさせることになった。


「ヤラセではないか」「台本だろう」と疑う声も多かったが…。

その配信者は二度と配信することはなく、また二度と人前に姿を現すこともなかった。


その事件の後、さらに厳重に封鎖された、その建物。

羅刹となった店主はまだ、そこにいるのだろうか。


それとも…。


[残骸/BUCK-TICK]

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