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BEAST・後編

加山が戻ったその日の夜…。

茨城県の海岸沿いにある、深夜の臨海コンビナート。


愛用の二輪で到着した加山は、そこに並ぶ無数の倉庫のうち、指定された一つの倉庫の門を開けた。

途端に、血の香りが鼻腔を刺激する。

それと同時に、圧倒的な威圧感が己を包んだ。


久しく感じていないその感覚を懐かしく思いながら中を見渡すと…。

倉庫の真ん中に一人の影が見える。

おそらく、その人影…この威圧感の主が、モモタケの言う『鬼』なのだろう。


暗闇にも目が慣れ、人影の様相を見て取った加山が、微かに笑う。


「なんでえ…俺の勘は外れちまったな」


この話を聞いた時、おおかた昔の血が騒いだモモタケの自作自演だと加山は当たりを付けていたが…。

どうもそうではないようだ。


目の前にいるのは、中国人の男。

それも、かなり若い。

二十歳そこそこであろうか。

まさか、モモタケが今だけ若返っているという事もあるまい。

男からほのかに香る血の香りが、そしてその男の冷たい表情が、ただものではないと語っているのは加山にも感じ取れた。


しかし、己は加山だ。いわば不死不滅の王。

たとえ鬼が相手でも、その自信は揺らぎようはずがない。

改めてそう確信し、加山はいつものにやけ面を浮かべ鬼へ近づこうとする。


その加山に、中国人の男は素早く片掌を前に出し発声した。


「…止まれ、そこで」


抑揚のないその声とほぼ同時に、加山も違和感を覚え己の歩を止める。

己の歩む少し先、ちょうど首のあたりに、微かに光る線のようなものが見えた。

加山はその線を指で触れ、その違和感の正体を確認する。


(…ほォ…刃鋼線じんこうせん、ってやつか)

刃のように研ぎ澄まされ、たいていのものなら切り裂くことができる鋼線。

それが、加山の首の前に張られている。

それも、かなりの練度である。

人体程度なら軽く切り落とすことができるほどの業物だ。


何も確認せずに突っ込む三下なら、己でも気づかないうちに首と胴が離れ離れになっていることだろう。


(こんなモン、仕掛けてやがったか)


中国人の男としても、自らの隠れ家が割れているのは知っていたようだ。

だからこそ、このような罠を仕掛けていたのだろう。


(…やれやれ。また、アイツに笑われちまいそうだ)

子供の頃から、常々、山崎に言われていた言葉を思い出す。

己の強さを過信するな。

敵の風体だけで判断するな…と。


目の前の中国人が優男であるという一点だけを持って、いつのまにか侮っていたことを、加山は自嘲するように笑った。


「…帰れ。死にたくなければ。その程度の腕では得るものはない。何も」

感情のない声で中国人が言い放つ。

その声も表情も恐ろしく冷たい。

まるで能面のようだ。


男の目を見た加山は確信する。

あれは、強者を欲している目だ。

己と対等に戦える強者を。

生まれ持った類稀なる力を、磨きに磨いたこの技を、存分に、悔いなく、余すことなく全力で振るいたいという強者の目だ。

なればこそ闇取引の業者に、己が闘うに足る強者を求めていたのだろう。

しかし、闇にも己と対等に戦えるものはなく、いつしか諦めと絶望を覚えた…。

そんな男の目。


…己の神技という大翼を持ちながら、現代社会という檻の中であるが故に、いびつにしか翼を広げられない鳳凰。


その眼を見て、加山は己に問う。

なあ、加山よ。

あの目はどうだ。

己を見るあの若い男の、あの眼はどうだ。

能面のような、感情のない、冷たい目だ。

この俺を、この加山様を、今まで葬ってきた凡百凡千のなまくらどもと、まるで同じと言っているようではないか。


「…気に入らねえよな…」


呟くと、加山は大きく息を吸う。

そのまま目の前の刃鋼線へ向けて、大きな掛け声とともに手刀を振り落とした。


じゃッ!」


バチィンという金属音とともに、刃鋼線が割れる。

振り下ろした加山の手には、少しの裂傷もない。


「ガキの頃からこういうの漫画で見てきたがよ…イッペン、試してみたかったんだ。

ありがとよ、チャイニーズボーイ」

その言葉を受け中国人の男は一瞬眉を上げたが、また能面のような表情へと戻る。


「礼をしてやらなきゃな…

おいチャイニーズボーイ、日本語わかるだろ?

名前はなんて言うんだ?」


数瞬置いて、中国人が口を開く。


「…リャン…この国で、誰かが私をそう呼んでいた」


わずかに感情を込めた声で、『鬼』―梁はそう告げる。

そして、空手とも中国拳法とも、既存のどの格闘技とも違う己独自の構えを取り、梁は加山と対峙した。


「…ミスター、貴方の名は?」


へへへと笑い、加山が梁を見据える。

「加山ってんだ…

チャイニーズボーイ、いや、梁さん。よかったな」

加山も腰に手を当て、世に『一撃絶命加山流空手いちげきぜつめいかやまりゅうからて』と恐れられた、己独自の構えをとり呟いた。


「地獄で自慢できるぜ。この加山様に、本気で戦ってもらえたってよ」

両者、対峙す…。


……。


…。


―――その瞬間、加山は爆発した。


ITE(イテ)ッ!!」


一撃絶命加山流空手いちげきぜつめいかやまりゅうからて』の負担に己の体が耐えられなかったのだ。


そして加山の爆発に倉庫の武器が引火した。


救命阿ジュウミンア!」


加山が起こした爆発は梁もろとも辺り一帯を吹き飛ばした。


~おしまい~


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