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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第八章 ドリーム ノット アウェイキング
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第九話 籠城Ⅲ

 ルナは、ルナは何処だ? 無事で居るんだろうな?

 ルシフェルに比べれば、秋津はまだ信用がおける、それでも気が急いて胃が焼ける。


 秋津は洞窟を進む。洞窟とか言っても、ゲームのダンジョンだ、自然界のものとはまるで違って綺麗なもんだ。

 ほぼ四角に近い穴は灯りもないのに薄暗い程度で、足元も危なくはない。石ころ一つ落ちてはいないし、壁もつるりと綺麗なもんだ。人工で掘り進めた坑道だってこんなに綺麗な岩肌はしてない。


 茶色い土色の壁というだけ、リアルで洞窟に親しんだ覚えがある俺は、これを洞窟とはとうてい認められない。家の近所に天然の洞窟があったからな、こんなモンは"自然"ですらない。

 本物の洞窟ってのは、もっとじっとりと湿った空気が充満して、なんともいえないすえた臭いがして、岩肌はゴツゴツして、まるで生き物のはらわたのようなもんだ。


 そんなモンを再現したって、プレイヤーからは忌み嫌われるだけだから、ゲーム世界の洞窟はコレでいいんだけどな。考え出したら複雑な気分になる。


 秋津は四角いダンジョンの通路を通り、一室で止まった。

 部屋と形容したほうがしっくりくるんだ、区切りみたいな柱があって少し通路より広い土壁の部屋。

 馬が休んでいる。そんで、その馬の傍にはルナが座り込んでいた。拘束されてる様子は……て、両足を固めてるそのクリスタルの塊は、なんだ? まさかまた、このゲームには存在しないモノが組み込まれたのか?


「……怖い顔で睨むなよ、ほら、飯持ってきた。」

「いらない。」


「食っておけよ。スタミナが切れると、二度と起き上がれなくなるんだ。廃人同然にベッドで寝たきりのまま、ゲーム世界で過ごすことになるぞ。」

 そうだ、食っておけ、ルナ。


 ルナはしぶしぶ、目の前に置かれたナマズの素揚げに手を伸ばした。ナマズはこのフィールドの奥にある池で釣れる魚のうちではポピュラーだし、あの料理はスキルが低くても作れる。本当に揚げただけだからな。


「塩が入ってないよ、コレ。」

 むーっ、と頬を膨らませてルナが文句を言った。


「文句言うなよ。調味料の類は、俺達の側では手に入らないんだ。」

「ルシフェルなんかは美味しい料理食べてるんじゃないの?」


 言うねぇ。

 秋津は黙り込んでしまう。その通りだからだ。


「あの人、ズルいよね。自分ばっかり得してる。」

「そ、そんな事はない、アイツも俺達と共に苦労を分かち合ってる部分もある。」


 共同体意識があのヤロウを庇わせている。どこかでは、ヤロウ一人が特別で、得をしていると解かっていても、それを否定してしまう。ルシフェルの友達だという自負や、片腕だという自信、皆を牽引しているトップの一員という地位も、皆のために働いているという矜持や、共に脱出の為に戦っているという崇高な目的意識や……、そんなものが全て崩れ去ってしまうからだ。


 いいように利用されているだけ。それは、人間、認められたもんじゃない。

 ルナは容赦なく、秋津を責める。お子様にはその辺りの人間心理の機微とかは関係ないからな。


「なんで? エリスは恋人だったのに、酷い事されて逃げてきたじゃない。リラはお姉ちゃんを憎むほど酷い事されて、やっぱりこっちに逃げてきたじゃない。最初から、あの人は弱い人たちを全部放り出して、捨てたんじゃない。チートやってた人だって、強い人だけ許して贔屓したじゃない。」


 ヤロウには正義のカケラもない。ルナみたいに小さい子が見てもそれは一目瞭然なのだと、ルナの外見の少女の姿が秋津を責めている。その場その場では誤魔化されて、けれど積もりに積もった今、振り返ればそれは隠しようがないほど明確だ。


 秋津は言い返す言葉もなく、黙って俯いている。

 よし、とりあえずコイツはルナに手出しはしないだろう。待ってろ、ルナ。すぐに助けに行ってやる。


「アイツも、一生懸命なんだ。可哀そうなヤツなんだよ。」

 まるで苦しい言い逃れのように、秋津はヤツを庇う言葉をぽつりと吐き出した。


 知ってるよ。強いヤツを中心に、必要なだけの人数さえ集まれば倒せる敵だからな。口の巧いヤロウのことだ、ログアウトしようと思えば簡単に出来た。そういう選択肢があったのにしなかったのは、欲もあるけどそれ以上に何百人という他のプレイヤーを見捨てる事に罪悪感を覚えたからだろ。一度目のログアウトは簡単だが、強い連中の抜けた後では、極端に脱出が難しくなるからな。


「アイツだって最初からああだったわけじゃない、信じてやってくれ。だんだんオカシくなっていっただけで、最初からあんな酷い事をするような奴じゃなかった。俺はデスゲになる前から付き合ってたからよく知ってるんだ、アイツはオカシクなっちまっただけなんだ。」


 懺悔のように、秋津はルナに言い募る。まるで彼女が女神で、彼女に許されることが贖罪であるかのように。

 ルナは無言で睨みつけている。言葉で済ませようとする愚か者を侮蔑する眼差し。


 間違いを探すなら、個人の責任じゃなく偶然の重なりを見るべきで、悪を探すなら集団の中にある流れを探るべきで、追及は、誰か一人に集約されるべきものじゃない。


 アイツ一人のせいだなんて思うのは間違いだが、この混乱を収束させるためには、秩序の回復か、新しく取って代わるルールが必要で、それは人柱の上にしか成り立ちえない。可哀そうだの、間違ってるだの、そんなもんじゃなく、"必要"のせいでヤロウに非難が集中していくんだ。ここまで混乱が大きくなったら、誰かが責任を取らなきゃ終われない。

 他の手では収束しないだろう。憎悪嫌悪が大きくなりすぎたんだ。


 集団の中で秩序を乱す事件が起きれば、すぐに起きる犯人捜し。なぜそうなるかといえば、もう一度人々を抑えるために見せしめが必要だからだ。人間社会ってのは、そんなに綺麗なもんじゃない。重りがなければ己の悪心を抑えられないヤツが、一人でも居るならそうなる。


 正確には全員に非があり、全員が等しく罪を負わねばならないが、それでは人々の悪心を抑制出来ない。

 社会秩序が維持できないから、人間社会は全員の罪を"誰か"に代表で負わせるんだ。事件の発端、あるいは中心となった"悪心"を炙り出そうとする。


 奴は最初から間違ってたわけじゃない、途中で判断がおかしくなっていっただけだ。

 だが、ヤツは代表だ。人々を間違った方向へ導いた。

 やっちまった事に対する責任だけは、絶対に、取らなきゃいけないんだ。良い悪いじゃない。



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