第四話 謎の中国人Ⅲ
「こういった不幸な事故は、実は日本国だけでなく世界中、あらゆる国のVR架空世界で起きている。超法規集団である我々『オクトパシィ』は、国家のしがらみを越えた行動力によって、君たちのように不幸にもデスゲームに取り残されたプレイヤーの救出に力を注ぐことを目的として作られたものだ。」
ごたくが長ぇよ、おっさん。
「あー、思い出した。VRテロリスト集団で国際指名手配の"オクトパシィ"か。」
「不名誉なことだ。我々の活動は正しく評価されていないんだよ。多くのプレイヤーを救出してきたというのにね。」
救出が聞いて呆れるぜ。
テロ集団"オクトパシィ"、国際犯罪組織でVRゲームをことさらに目の敵にして脅迫や破壊工作、風評流布を行っている連中だ。RMTで荒稼ぎもしてるってもっぱらな噂だな。
他人のキャラデータをハッキングで乗っ取って、アイテムやゲーム通貨を盗品販売、とかな。技術者崩れだのハッカーだのが雇われてるだかメンバーに居るだかって話だ。
不用心なプレイヤーはVR箇体の管理が杜撰だ。いや、機械に疎い一般の人間は、ここまで複雑になったネット周辺の事情は理解が出来ない状況にある。だから、セキュリティ問題も、ゲームサーバー側よりもまず個人ユーザーの危機管理に原因があると見たほうが解決が早いくらいだ。
ユーザー側が、高度に発達したネット環境を使いこなせない。そうしたら、その穴を狙った犯罪者が現れて、繁盛してしまえば常態化するって寸法だ。商売繁盛、潤沢な資金は犯罪者を組織化し強化してさらに悪質な犯行をも可能にしてしまう。
そうして生まれてきたのが、"ネットゲームは健全なリアル社会を破壊する"という思想を隠れ蓑にした犯罪組織"オクトパシィ"というわけだ。
「アンタ等の噂は聞いてる。ネットでデスゲームが発生したら、徹底的に叩いて運営会社を潰してしまうって話だよな。ゲームを愛してたプレイヤーには滅茶苦茶恨まれてるぜ、アンタ等。」
実際は裏で脅迫して金をせしめ、渋った会社を見せしめに潰してるって噂だったけどな。
「経営方針を改めない会社に対しては、警告のみでは済ませられない場合もあるよ。プレイヤーの為だ、安全を蔑にする運営会社にはそれくらいの覚悟と行動で望まねばならない。」
「よく言うぜ、救出っていって、毎回、何人かは救い切れずに殺してるくせによ?」
「そう、大多数は努力により救出が叶うが、一部の尊い命は失われる。だからこそ、我々は活動を続けねばならないのだよ。我々の理念は危険なネットゲーム世界の即時全撤廃だ。ゲーム世界が存在しなければ、デスゲーム自体が起こりえないじゃないか。危険と解かった技術を使い続ける必要はない。」
一見はもっともなんだけどね。アンタ等の場合は本末転倒。
黒い噂がある。オクトパシィはわざと一部のプレイヤーを見殺しにしている、と。そのゲーム世界を許可した国が政治判断を下すよりも先に介入し、勝手に活動して解決に導いてしまう、と。
国はなにもモタモタと手をこまねいているわけじゃない、もっとも有効な手を模索している場合もある。それを無視して、彼らの論理で強引に解決に持っていくから出なくていい犠牲まで出ているんじゃないか、そんな噂も囁かれている。サーバーダウンという最悪の結末を迎える機会がとにかく多いから。
自衛隊やらアメリカ国防軍、国の持つ組織には必ずVR対策の特殊部隊が置かれている。細々した法規手続きに縛られて、奴らほどの機動力には欠けるが、それでも専門家の集団だ。それに対抗出来るってことは、少なくともデスゲームに対応できる技術を持っているってことで、コイツ等が、逆にデスゲームを意図的に作り出すことも可能ってのは頷ける話だ。
なんにしても、金儲けと思想実現が目的のテロリストだ。スピード解決をウリにしてるが、自分たちの思想が優先、プレイヤーの安全は二の次ってことだ。
なるほど、姫香を取り残してくれって依頼は、つまりサーバーダウンで一気に片付けるって意味か。
どうせコイツ等、ケースバイケースでサーバーダウン事故も意図的に起こしてやがるんだろ。自演乙。
ルシフェルには自分たちの正体を教えていないのだとすれば、ヤロウは海藤グループの者と見当を付けるだろうからな。まさかテロ組織"オクトパシィ"と繋がってくるなんて思うわけがない。
俺も、言われなきゃ想像もしてない話だったからな。
だから、承諾したわけだ。疑いはしたろうが、他に選択肢はないんだし。
いや、ヤロウの事だからなんらかの取引はやってると見るべきか。嫌なタッグだぜ。
……さっきから、妙に気忙しいな。
素知らぬ顔をしてても、気配でなんとなく解かるんだぜオッサン。
時間なんか気にして、いったい……あ、
まさか、ルシフェルが言ってた連絡待ちって、コイツ?
"囮"か?
「おっさん、まんまと俺を嵌めてくれやがったな。あんた、何食わぬ顔で俺の質問に答えて……時間稼ぎしてたのかよ、」
吐き捨てるような俺の嫌味に、おっさんはにやりと底意地の悪い笑みを浮かべた。
戦闘は必然、街を抜けずに自軍には戻れない。おっさんの居るフィールドを通らねばならない。




