第8話 役割
活動報告書 作成者:S4ku
【魔法少女について】
6月×日。一人目の魔法少女の人員確保に成功。
草加部日和。13歳。日本○○県△△市□□町に在住。花園中学校の生徒。一年一組。気弱な自分から、誰からも頼られる自分になりたいという夢を持っているため、魔法少女適正あり。
魔法少女名はマジカル☆チェルア。桜の花びらを出現させて自在に操るのが特徴。必殺技の時はステッキがハンマーに変化。
【セーフクについて】
雨宮怜奈の負の感情が利用され、ダークモンスターが生成された。ダークモンスターは□□町の中心に出現。魔法少女マジカル☆チェルアによって浄化される。
浄化後の雨宮怜奈の様子に異常はない。経過観察中。
【その他】
ダークモンスターを出現させた敵の幹部の姿は発見できず。
雨宮怜奈を魔法少女に勧誘するか検討中。場合によっては妖精の派遣を要請する可能性あり。
「……こんなところか」
自分の書いた報告書に誤りや漏れがないかを見直す。横でタイミングを見計らっていた半田が声を掛けてくる。
「咲、終わったか?」
「ああ。今終わった」
半田にパソコンを借りてよかった。スマホで作るよりもずっと作りやすい。後でその他の欄に『パソコンの貸し出しを要請』と付け加えておこう。
「んじゃご飯にしよう」
「そうだな。半田、パソコンを貸してくれてありがとう」
「いいってことよ。咲、運ぶのを手伝って」
俺は半田と一緒に夕飯をテーブルに並べる。今日は親子丼のようだ。
妖精の手では箸が持てないので、俺のお気に入りの漫画本『百合の花園』に出てくる酒井小百合に化ける。手を合わせ、半田と声をそろえて「いただきます」と口に出す。これは日本に来てから知った文化だ。
「美味しいな」
「そう? 咲はうまそうに食べてくれるから作り甲斐あるな」
半田が嬉しそうに笑う。褒められて悪い気はしないな。
妖精はそもそもお腹が空くことがないので食べることは娯楽である。たとえ俺が人間に変身してもそれは変わらない。だけど人間界では、食べることは生きるために必要なことであり、さらに日本人は食べる前に毎回ご飯をいただくことに感謝して食べるらしい。
俺は妖精なので食べなきゃいけないことはないが、半田がせっかくだからと俺の分も作ってくれるので、それに甘えて日本に来てからは俺もご飯を食べている。おかげで食べることの楽しさも最近知った。
「それにしても、魔法少女になってくれる人を見つけるの早くない?」
「確かに。俺もこんなにすぐ見つかると思わなかった」
「魔法少女が見つかったってことは、咲はもうそっちに住むのか?」
「……それは今迷っているところだ」
妖精の主な仕事は魔法少女のサポートだ。いろんなところに一緒に行ったり、同じ家に住むのも妖精が魔法少女のサポートをしやすくするためだ。だから妖精としては魔法少女の家に一緒に住むのが定石である。ただ、俺には気がかりなことがあった。
俺が日和の家に住むことで怜奈との仲を邪魔しないかということである。もちろん俺が日和の家に住むだけで二人の仲が壊れるほど脆いとは思っていない。だけど、怜奈の心境は穏やかじゃないだろう。怜奈が敵視している俺が仕事とはいえ一緒の家に住んだら、どんな反応をするか分かったもんじゃない。当て馬も悪くなかったが、百合を見守りたい俺としてはやはり二人を見守りたいのだ。
「まあ、僕としては咲がまだここにいてくれたほうがありがたいけどな」
「そうなのか?」
「咲がここにいる限り僕は毎月バイト代もらえるからな。というか今月使い倒した分、来月もここにいて僕にバイト代をいれさせるぐらいはしてくれないとなあ?」
「……ここにいさせていただきます」
半田はガッツポーズをする。お金に執着している半田を見ると、やはり人間界ではお金が大事なんだとしみじみ実感する。
「まあでも、咲が本気で悩んでるならお試しで泊まるのはありだと思うよ」
確かに。半田に言われるまで考えもしなかったが、日和と相談して試しに泊まらせてもらって様子を見るのはありだろう。
「そうだな。相談してみる」
「おっけ。咲が泊まりに行く日にちが分かったら教えて」
「分かった」
「ちなみに聞いていいか分かんないけど、魔法少女になる条件ってあるの?」
俺は首を傾げる。半田がなぜそんなことを気にするのか不思議だ。
「半田も魔法少女になりたいのか?」
「違うわ! 見つけるのが早かったから、案外条件とかがないのかと思っただけ!」
半田が呆れたようにため息を吐く。
「だいたい魔法少女なんだから、男はなれないでしょ」
「なれるぞ」
「なれるの!?」
「ああ。ただ、今は男が使う対象のステッキがないから無理だな」
「……てことは、年齢制限はあるの?」
「ない。ただ、魔法少女の条件が『起きながらにして夢を見ている人』だから大人はなりづらいらしい」
「ああ、そういう理屈なのか」
半田が納得したように頷いた。
「にしても、男用も用意すればもっと魔法少女……男だと魔法少年か? まあなんでもいいや。もっと探しやすくなりそうだけどな」
「……それは俺も思う。だけど、今の妖精の国では無理みたいだな」
俺は管理官と話をした時のことを思い出す。
以前、俺はこんな質問を管理官に投げかけたことがある。
「どうして幼い女の子だけが魔法少女になれるのですか」
「S4kuはどうしてそんなことが気になるんだ?」
「だって、子どもの、ましてや女の子を戦わせるなんて危険じゃないですか」
「魔法少女は、夢見る気持ちが強いほど力が強い。子どもはあんなふうになりたいと憧れたり、こうでありたいなどと夢を見るだろう。だから子供がぴったりなのだ。現実を知らない者ほど、夢を見る力が大きいからな」
「では、なぜ女の子だけなのでしょう」
「……子どもであることが大事だから、理屈的には男の子にもなれる。ただ用意しているステッキが女の子用しかないから、女の子を探しているのだ」
管理官は淡々と答えた。聞きたいことが分かっていて管理官はわざとズレた答えをした気がする。いつもならそこで聞いてはいけないことなのだろうと察して聞くのを辞めるだろう。けれど、俺はどうしても知りたかった。
「では、男の子用のステッキも用意したらいいではないですか」
「……それは無理だ」
「なぜなのですか、管理官」
「S4ku。……これ以上は話せない。それと、他の奴には聞くんじゃないぞ」
そう語る管理官の目はどこか悲しい目をしていた。
管理官のあの時の様子を考えると、何か理由があるのは明白だ。しかし問い詰めたところで教えてもらえることはきっとないだろう。そう、考えたところで無意味なのだ。
俺は、俺の与えられた役割を全うするのみ。そのついでに百合を拝むくらいは許されるだろう。
「ごちそうさま。今日は俺が皿を洗おう」
「マジ? じゃあ頼むわ」
「任せてくれ」
俺は空になった皿を持ってキッチンに向かった。




