第7話 幼馴染として
俺が意識を取り戻した時、日和は必殺沢であるマジカルハンマーを使ってダークモンスターを倒すところだった。教えていないのにステッキを使いこなせたのは日和だったからだ。不甲斐無い俺の代わりに頼りになる魔法少女に出会えて、本当に良かった。魔法少女になるべくしてなったのかもしれない。
自分自身の不甲斐なさを反省しつつ、俺は日和のことが誇らしくなった。
変身を解いた日和に俺は話しかける。
「日和、お疲れ様。よく頑張ったな。本当にありがとう」
「守里さん。……怜奈は、大丈夫ですよね?」
日和は背におぶった怜奈をちらっと見る。怜奈はまだ気を失っているようで、日和の背中にすべてを預けている様子だ。
俺は日和の目を見てうなずいて見せる。
「怜奈は気を失っているだけだ。じきに目を覚ますだろう」
「! それなら良かった……」
日和はほっとした表情を浮かべた。日和の親友を思う気持ちが尊くて、思わず笑みが零れた。
さて、妖精としての俺は魔法少女についていろいろ話したいとこだが、内容は明日でもいいだろう。今の戦いで気になることがあったので、それを調べてからでもいい。それに二人を見守る俺としては、二人で話す時間を作ってあげたい。
そわそわしている様子の日和に俺は話しかける。
「日和、魔法少女についていろいろ聞きたいことがあると思う。俺としても説明したいが、長くなるだろうし、俺は調べたいことがあるから明日にしよう。それよりも日和は怜奈のそばにいてくれ」
「分かりました!」
「怜奈に日和の気持ち、しっかり伝えるんだぞ」
日和が頷いたのを確認して俺は日和に背を向けた。きっとあの二人なら大丈夫だろう。明日会うのが楽しみだ。
さて、切り替えなければ。俺は自分の頬を叩く。ここからは妖精としてのお仕事をしなければ。
ダークモンスターが現れたということは、どこかで敵の幹部が見守っていたはずなのだ。だけど怜奈がダークモンスターになった時にその姿は見当たらなかった。
「いないはずはない。どこにいるんだ……?」
もしかしたらまだ近くにいるかもしれないから探してみるか。俺は人間の姿に化けて、街の中に繰り出した。
***
怜奈の部屋で、ベッドに横になる怜奈の手をそっと掴む。窓の外は夕日が落ち始めているのに、怜奈はまだ目覚めない。
怜奈、あなたに話したいことがあるの。だからお願い、起きて。私は心の中で怜奈に話しかける。
「日和ちゃん、怜奈、入るよ~」
扉がノックされたので私は返事をした。扉が開いて見知った人が入ってくる。
雨宮 李依奈。高校一年生で怜奈のお姉ちゃんだ。怜奈が優等生なら、李依奈さんはギャルっぽい。私みたいに話すのが苦手な人にも李依奈さんのほうから話しかけてくれる優しい人だ。
淡い黄色のシュシュで括られたポニーテールを揺らし、腰に巻いた水色のパーカーをなびかせて李依奈さんが私の隣に座る。
「怜奈の様子、どうかな?」
「李依奈さん。怜奈はまだ目が覚めないです」
「そっか~」
李依奈さんがじっと怜奈を見つめる。たった一人の妹だから心配しているのかな。私がもっと早く助けられたら、もう目が覚めてたかも。そう思うと悔しくなって、つい拳をぎゅっと握ってしまう。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。日和ちゃんは優しいね」
李依奈さんが微笑みかけてくれる。きっと李依奈さんだって心配しているのに、きっと私を安心させようとしてくれているのだ。
私のせいで怜奈が目覚めないのに優しいって言ってくれたことが申し訳なくて、でも同じくらい安心しちゃって、心の中にあるもやもやがつい口から零れた。
「私、怜奈が起きたら謝らなきゃいけないことがあるんです」
「そうなの?」
「はい。私は自分の意見を言うのが苦手で、いつも玲奈に助けてもらってばかりでした。だけどそれが申し訳なくて、羨ましくて……怜奈が努力してできるようになったってことを忘れて、いつの間にか怜奈の表面だけを見て僻んじゃっていたんです。だから、もし起きたらちゃんとお話しして謝りたいんです……!」
私は目を瞑る怜奈の手をぎゅっと握る。
李依奈さんは黙って聞いてくれた。私の話が終わってから少し間が空いて李依奈さんが息を吸う音がする。
「ん~、日和ちゃん自身の気持ちを伝えるのは大事だね。だけど怜奈の話も聞いてあげて。日和ちゃんが思っているより、ずっと強がっているだけから」
李依奈さんは怜奈の頭を撫でた。二、三回撫でると李依奈さんは撫でるのを止めて立ち上がる。
「それじゃあウチは自分の部屋に戻るね! 日和ちゃん、怜奈のことよろしく」
「はい!」
李依奈さんは私に手を振って部屋を出て行った。
少しして、ようやく待ち望んだ瞬間が訪れる。
「ん……」
怜奈がゆっくりと目を開けた。
「怜奈!」
「……日和?」
私に気付いてこちらを見る。まだ頭がしっかり動いていないようでぼんやりとした顔だ。怜奈が上体を起こす。
「日和、なんでここにいるの?」
「怜奈が起きるのを待ってたの。目が覚めてよかった……!」
私は嬉しくて思わず怜奈をぎゅっと抱きしめた。腕の中で怜奈がたじろぐ。
「なっ、日和……!?」
怜奈の驚いた声が聞こえる。反応があるのが嬉しくて、抱きしめる力が自然と強くなる。困惑していた怜奈もつられるように私を抱きしめた。
しばらく二人で抱きしめ合った後、私は離れて怜奈の顔をしっかりと見た。ぽかんとした様子の怜奈に私は勇気を持って口を開く。
「あのね、怜奈に謝りたかったことがあるの。ずっと私のことを助けてくれてありがとう。私が自分の意見を言うのが苦手だから、いつも助けてくれていたんだよね。……でも、これからは私も自分の意見を言えるように頑張るから!」
「……頑張るって言っても、そんなに簡単に克服できるかしら」
怜奈が目を細める。きっと疑っているのだ。今まで自分から頑張ろうとしなかった私が急に頑張るなんて言っても信じられないのだろう。私が怜奈の立場でもきっと同じことを思うはずだ。
信じてもらえなくてもいい。でも、これだけは言っておかなくちゃ。私は怜奈の目をまっすぐ見る。
「私、怜奈は何でもできるから自分とは違うんだって、いつの間にか怜奈の表面ばっかり見て僻んでた。でも思い出したの。怜奈はできないことをいつも頑張って克服してたってこと」
「日和……」
「私、もう怜奈の足を引っ張るような自分でいたくないの。怜奈の幼馴染として、怜奈が自慢できるくらい頼れる人になれるように頑張るから! だからそれまで、その……見捨てないでくれると嬉しいな」
自信がなくなってきて、つい俯きがちになってしまった。でも言いたいことは言えたからとりあえずいいかな。
怜奈の様子を伺うと、怜奈はじっと私の顔を見ていた。何を考えているか分からなくて、あとずっと見られるのはなんだか恥ずかしくてさっと目を逸らしてしまう。
次の瞬間、私は怜奈に抱きしめられた。
「うわっ」
「見捨てるわけないでしょ、バカ」
言葉のわりに優しい声音だった。それが泣きそうなくらい嬉しくて、つい甘えたくなってしまう。
「怜奈、本当に一緒にいてくれる?」
「当たり前よ。何年日和の幼馴染してると思ってるの?」
「それはそうだけど、一緒にいるから嫌になったかなって――」
「日和、よく聞いて」
怜奈の真剣な声がした。私は息をひそめて怜奈の声に耳を傾ける。怜奈が息の吸う音が聞こえた。
「私、日和のこと大好きなの。だから見捨てたりなんかしないわ」
怜奈がさっきよりも抱きしめる力を強くする。怜奈の腕の中は温かくて心地良い。お返しをするように、私も怜奈を抱きしめた。
「私も怜奈のこと大好き!」
「……ありがとう」
お互いの体温が触れているところから溶け合って、なんだか心まで一つになった気分になる。
抱きしめているから怜奈の顔は見えない。もし怜奈も私と同じ気持ちだったら嬉しいな。
しばらくお互いの温もりと心が通じ合っているような心地よさに浸った。




