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みんなちがってみんな仲がいい

 時系列的には、03章後です。


 ・-・-・-・-・-・-・


 人間界に来て、ミーは気付いたことがある。


「咲、どうだ?」

「すごくおいしい。前とちょっと味が違うな?」

「咲は甘いのが好きって言っていただろ。だからちょっと味付けを変えてみたんだ」

「そうなのか! どうりで前よりもおいしいと思ったんだ」

「咲は分かってくれるから作り甲斐があるな~」


 咲センパイと半田さんの仲が良い。仲が良すぎてキモいくらいだ。だからなんだか、居場所が無くてちょっと居づらい。


「家ではそういう感じなんですけど、キモくないですカ」


 カフェ“夕やけ”で魔法少女の二人に愚痴る。日和さんは不思議そうに首を傾げた。


「仲が良いのはいいことなんじゃないかな?」

「あんたもつっかかってばかりいないで、ちょっとは仲良くなる努力をしなさいよ」

「ミーのこと全否定ですカ!」


 なんでみんなしてミーにこんなに辛辣なんですカ!


「家に居づらいなら、うちに来てもいいよ?」

「いや、それはちょっと遠慮しておきます」


 咲センパイがなぜか日和さんの家に泊まることを避けていた。魔法少女の家に住むのが定石なのに、真面目な咲センパイがしないってことはきっと何か理由があるはずだ。


「だいたい、魔法少女のお二人もと~っても仲が良いじゃないですか。ミーが泊りに行ったところで二人がと~っても仲良くしてるところを見せられるだけならごめんですよ?」


 ミーがにやにやと二人を見ると、日和さんは笑みを浮かべて、怜奈さんは顔を赤くして同時に口を開いた。


「うん、仲は良いよ」

「な、なに言ってるのよあんた!?」


 息ぴったりに正反対のことを告げた。二人が顔を見合わせる。


「えっ……怜奈は違うの?」

「そうじゃなくて……その…………」

「仲良しだと思ってたのは、私だけだったんだ……」

「ち、違うわよ! そんなつもりで言ったんじゃないの! 私、てっきり……」

「……てっきり?」

「っ、えっと……私は……」

「いちゃつくんじゃねーですヨ! 仲が良いですネ‼」


 どいつもこいつもミーの目の前でいちゃつきやがって! 意地悪するつもりが返り討ちにあった気分だ。


「い、いちゃついてなんかないわよ……」

「だったらなんでそんなに嬉しそうなんですカ」

「ふぇっ!? こ、これはそういうのじゃなくて……」

「怜奈、顔赤いよ? 大丈夫?」

「ひゃっ」


 日和さんが怜奈さんのおでこに手を当てる。怜奈さんの顔がもっと真っ赤になった。咲センパイなら「天然強いな……」と嬉しそうな顔で拝んでるかもしれないが、ミーはもう付き合ってられない。


「……ミーは先に帰りますネ。あとはお二人でごゆっくりどうぞ」


 ポカンとした顔の日和さんと顔をりんごのように真っ赤にした怜奈さんを置いて、ミーは先にカフェ“夕やけ”を出た。




 なんとなく家に帰る気も起きなくてミーは公園のベンチに座る。


「はあ……」


 ついため息を零す。咲センパイや半田さん、日和さんや怜奈さんと仲の良い誰かが隣にいる。それはきっと楽しいことだと思う。ミーは妖精の国では問題児扱いだったから、誰かが隣にいてくれたことなんてない。だから、少しでも自分を見てくれる咲センパイに夢を見ているような、そんな気がしてならない。

 妖精の国にいる時も、こっちにいる時もミーは同じ。ずっと、――。


「ひとりぼっちは寂しいな」


 ミーの心の声が、違う声で聞こえてきた。

 つい隣を振り向く。サングラスをかけた大人の男性が一人公園のベンチに座っていた。今呟いたのはこの人だろうかと見ていると、男性が口を開いた。


「ああ、すまない。独り言がつい口に出てしまった」

「……ユーも、ひとりぼっちなんですか」

「そうだ。キミもそのようだな」


 ミーは頷く。まさか同じような人がこんなにすぐ近くにいるなんて思わなくて、つい頬が緩んじゃう。


「話せる人はいるんですけど、ミーが仲が良いと思ってる誰かの隣には、その人がもっと仲の良い誰かがいるから、ちょっと寂しいんですよネ」

「その気持ち分かるな。ぼくにも覚えがある」


 男性がはあっとため息を吐く。


「本当の自分はきっと受け入れてもらえない。だからその人たちに合わせようとして仮初の自分を演じてしまうことがある。まるで舞台に立っているかのようにな。……しかし、同時に仮初の姿の自分を、自分だと言いたくなる気持ちもある。でも、それは結局その場に適応しただけの仮面だと気づいて、苦しくなるのだ」

「??」

「……つまりだな。ありのままの自分でいられる場所が、きっと大事な場所だということだ」

「なるほどです」

「だから、あれだ。その……無理をするなってことだな」


 無理をするな。男性のその言葉がすとんと胸に落ちる。確かにみんなと一緒にいる時は、自分らしくいられている。みんなのように誰かの隣に立っているわけじゃないけど、輪に入れてもらっている実感はある。もしかしたら、ひとまずはそれでいいってことなのかな。


「オニーサンと話したら、なんだか心が軽くなりました。ありがとうございます!」

「それは何よりだ」

「良かったら、ミーとお友達になってくださいヨ」

「いいぞ。ぼくも君のような可愛らしい天使とお友達になれるなんて光栄だな」


 オニーサンの独特な言い方についくすっと笑い声を零す。

 その時、ミーの着信音が響いた。画面を見ると咲センパイからだった。跳ねる心臓を抑えて電話に出る。


「もしもし」

『後輩、今どこにいる』


 咲センパイの声につい心が跳ねる。心配してくれたのかなって嬉しくなってしまうのは、ちょっとチョロすぎかもしれない。


「公園ですヨ。もうすぐで帰るつもりなので心配いらないですからネ」

『それなら良かった。大事な後輩に何かあったらと思うと心配だったから安心した』


 そんなこと平気で言えちゃうんだから、ずるい先輩だ。


『今日は琉亜の好きなオムライスだそうだ。良かったな』


 食べ物につられるのは咲センパイだけですヨ。やっぱり、変な先輩だ。


「楽しみにしてますネ」

『ああ、待ってる』


 電話が切れる。胸がぽかぽかして、頬は緩みっぱなしだ。

 はっとしてオニーサンを見ると、微笑ましそうにこちらを見ていた。


「愛されているな」

「……そーみたいですネ」

「良かったじゃないか。受け取れるものは受け取っておくといいぞ」

「……そーします」


 ミーはオニーサンに向き直る。家に帰るということは、オニーサンとのお話しもここでおしまいということだ。オニーサンは、それを分かっているのだろうか。余裕そうなオニーサンになんだか悔しくなる。


「オニーサン、また会えますかネ」

「会えるさ。近くにいるからきっと会えたんだろうしな」

「……そうだ。オニーサン、ミーにお名前教えてください! そうしたらまた会えた時に名前を呼べますよネ」

「それもそうだな。分かった。……ぼくは――」


 突然電話が鳴る。今度はオニーサンの携帯だった。オニーサンが電話に出ると、返事をするよりも先に甲高い声が携帯から聞こえてきた。


『ボス、どこに行ってるの? ウチと大上先輩はずっとアジトで待ってるんだけど』

「……今日は休みのはずだが」

『別にいいじゃん。ウチらここに来るほうが楽しいんだもん』

「はあ、自由な奴らめ。……今すぐ行くから待ってろ」

『マジ? んじゃ、よろ~』


 電話が切れる。オニーサンはため息を吐くと、苦笑いをした。


「悪いな。ぼくも帰る用事ができた。また出会えるかもしれないし、名前はその時にちゃんと伝えることで良いか?」

「うわぁ~、なんだかロマンチックですネ! 仕方ないからそれで許してあげますヨ!」

「助かる。それじゃあまたな、悩める同志よ」


 オニーサンは背を向けて行ってしまった。また会えるかは分からない。でも、また会えたらいいな。

 その背中を少し見つめてから、ミーも深呼吸をして背中を向ける。どうやらミーは一人じゃなかったみたい。

 来た時よりも軽い足取りで、ミーは家に向かった。


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