日和の家にお泊り問題
しばらくは番外編をお楽しみください。
時系列的には、02章~03章の間です。
・-・-・-・-・-・-・
ある日、カフェ“夕焼け”で日和、怜奈、俺の三人で話している時のことだった。
「ねえ、守里さんはどうして私の家に泊まりに来ないの?」
日和がとんでもないことを言いだしたので俺は慌てる。怜奈の様子をちらっと見ると、怜奈が怖い顔を浮かべていた。いや、表情は笑顔なのだが、圧を感じる。
怜奈が日和のことで嫉妬している様子は尊いが、それを俺に向けられるのは困る。俺はあくまで見守りたいだけなのだ。
「な、なんで日和は気になるんだ?」
「だって守里さん、『たいていの妖精は魔法少女の家に住む』って言ってたのにまだ魔法少女になっていない怜奈のところに泊まりに行ったでしょ」
「あれは怜奈に魔法少女の適性があるか見に行っただけで――」
「私だって魔法少女だもん! だから守里さんが泊りに来てもいいと思う」
怜奈の笑顔がどんどん引きつっていく。やばい。俺が口を開こうとしたその時、怜奈が先に言葉を発した。
「ねえ日和、守里さんのこと好きなの?」
「え、ええ!? ち、違うよ! そりゃあカッコいいなっては思っているけど、それは憧れだし、人間じゃなく妖精だし、そんな……怜奈が思っているようなことはないよ」
日和の声が小さくなる。怜奈が呆れたようにため息を吐く。
「はいはい。日和は守里のことが好きってことね!」
「だ、だから違うよ! ……自分でもよく分からないけど、これは好きとかそういうのじゃなくて憧れっていうか……」
日和が考えるように間を置きながら、ぽつぽつと言葉を零す。
「助けてもらった時に守里さんのことはカッコイイなって思ってて、でもそれって好きとかじゃなくて憧れに近くて……褒められると嬉しくて……でもこの嬉しいって、先生とか親に褒められてるみたいな嬉しさっていうか……」
「……それで、結局なんなのよ」
「うーん、なんだろう……。守里さんの真似をしたいっていうか……そうだ、分かった!」
日和が顔をあげる。その目は輝いていた。
「私、守里さんみたいになりたいんだ!」
日和は納得したように頷くが、俺も怜奈もついていけない。
「日和、俺は妖精だから難しいと思うぞ」
「絶対そうじゃないわよ」
「怜奈の言うとおりだよ! 守里さんって、怜奈の家に泊まってから怜奈から信頼されてるでしょ?」
「……? そうかしら?」
「怜奈は自覚がないかもしれないけど、近くにいる私には分かるもん」
ちょっと拗ねたように目線を逸らす日和が可愛い。普段は大人しい日和だが、怜奈のことになるといつもより感情豊かになる。とても良い。それを間近で味わえる喜びをかみしめながら、日和の言葉に耳を傾ける。
「怜奈が頼るぐらい守里さんがすごいなら、私も守里さんみたいになれば怜奈に頼られるかもしれない。だから、私は守里さんみたいになりたい」
「……」
怜奈が複雑そうな顔をしている。怜奈からしたら、俺が日和の近くにいるのは気に喰わないが、日和が俺のようになりたいのは、あくまで怜奈自身に頼られたいからなので迂闊に否定できないのだろう。
二人の関係に俺が挟まるのはごめんだが、当て馬ポジションなら許せる。あくまで二人の関係が進む踏み台になれるのなら俺は喜んで手を貸そう。
ただまあ、怜奈がいいのであれば、だが。
「怜奈、どうだ?」
「……私は守里を頼っているわけじゃないわ。ただ、ちょっと話を聞いてもらっただけよ」
「怜奈、私にはそんなことしないもん」
「そ、そんなことないわ! 私だって日和のことを頼っているわよ」
「でも、私はもっと怜奈に頼られたい」
日和の様子に怜奈はたじたじになっている。俺はそれを微笑ましく見守る。
自分の意見を言うのが苦手だった気弱な日和と成績優秀で誰にでも強気な怜奈。リードするなら怜奈かと思っていたが、この様子を見るに案外リードするのは日和のほうかもしれない。
恋心を隠す乙女な怜奈はある程度自重しているので積極的にはいけない。そこを日和のほうからぐいぐい行くことで怜奈がたじたじになる。いつもの余裕を崩されている表情は、とても良い物だろう。事実、目の前で起こっている怜奈の慌てた表情と日和の拗ねたように怜奈の様子を伺う小悪魔な様子は、普段の二人とのギャップがあるから余計に妄想が掻き立てられる。
やばい、妄想が止まらない。
「守里さんはどうなの!」
「ああ、良いと思うぞ」
返事をしてから、何について言われたか聞いてなかったことに気付く。
日和は嬉しそうな顔で、怜奈は裏切られたような顔をした。
「守里さん、本当に泊まりに来てくれるの!」
「守里、あんた……協力してくれるって言ったのに……?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今のはそういうつもりじゃ――」
「え、守里さん泊まりに来てくれないの……?」
「守里、あんた日和を悲しませるんじゃないわよ!」
「情緒不安定すぎる」
ひとまず近々日和の家に泊まるということで話はまとまるのだった。




